湿ったコンクリートの匂いと、カビの臭い。
廃ビルの階段を上がるたび、上層階から下品な怒鳴り声と笑い声が聞こえてくる。
「……二十人ってところか。あの教師が言ってた半グレどもの集会だな」
アタシはポケットからバタフライナイフを取り出し、慣れた手つきで刃を滑らせた。
金属の冷たい質感が、かじかんだ指先に伝わる。
「おや、ナイフですか。随分と血生臭い趣味ですね」
背後から、ヒイラギの呑気な声が降ってくる。
振り返ると、彼はポケットに両手を突っ込んだまま、退屈そうに欠伸を噛み殺していた。
「うるせえ。お前は後ろで指くわえて見てろ。アタシ一人で五分で片付けてやる」
「ええ、期待していますよ。……ただし、あそこにいる3人目と7人目の男、彼らだけは急所を外してください」
「……あ?」
ヒイラギは静かに廊下の奥――半グレたちが溜まっている大広間を指差した。
眼鏡の奥の黒い瞳が、暗闇の中で妖しく光っている。
「あの二人は、うちの繁華街にヤクを流している組織の『末端の連絡係』です。殺してしまっては、上の足取りが掴めなくなりますから」
いや、
「……は?」
アタシは思わず足を止めた。
なんでコイツ、到底見分けのつかないような同じ格好した半グレどもの『役割』まで把握してんだよ。
アタシたちがここに来たのは、あの教師に命じられてからほんの数時間後だ。
調べる時間なんて一切なかったはずなのに。
