夜の九時。ネオンの明かりすら届かない、北神にある繁華街の裏手にそびえる廃ビル。
しんしんと降り積もる薄雪の中、アタシはコンクリートの壁に背を預けていた。
「……おっせーよ、あのクソ優等生」
寒さでかじかむ手に息を吹きかけ、舌打ちを漏らす。
どうせビビって来ないか、あの教師にでも泣きついて警察でも呼んでるんじゃないか。そんな苛立ちがピークに達した、その時。
カツン、と規則正しい靴底の音が暗闇から響いた。
「お待たせしました、ゼロさん」
闇の中から姿を現したのは、昼間の制服姿ではなく、黒のロングコートに身を包んだヒイラギだった。
相変わらずの端正な顔立ち。眼鏡の奥の瞳は、夜の闇に溶け込むように冷たく澄んでいる。
「……ざけんな。五分遅刻だ」
「すみません。途中で少し、邪魔が入ってしまいまして」
ヒイラギは申し訳なさそうに眉を下げ、物腰柔らかく微笑んだ。
けれど――アタシの目は誤魔化せない。
ヒイラギの黒いコートの裾。そこに、ほんの僅かに「新鮮な血」が飛散しているのを、アタシは見逃さなかった。
さらに、彼の綺麗な手の甲には、薄っすらと赤黒い痕跡。
