双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

 「アリアドネ様、今晩は、陛下はお部屋にはいらっしゃらないそうです。体調が回復したばかりだろうし、ゆっくりと休むようにとのことでした」
「そう、もう今日は下がっていいわよ」

 私の寝支度をしたメイドの言葉にイラッときた。

 セルシオ国王は女なんて気持ち悪くて抱けないくせに、まるで私に気を遣っているから部屋に来れないと言っている。
(本当に気にくわない男だわ⋯⋯早く離婚したい)

 翌朝、直ぐにセルシオ国王から大事な話があると呼ばれた。

「アリアドネ、俺と離婚してくれ。君を家族のように守ると言った約束を反故にすることを謝らせて欲しい」

 深く頭を下げながら言ってくる彼の言葉は予想外だった。

 私と離婚したいということは、彼もルイス皇子のようにカリンを求めているはずだ。

 それならば、嵌められたと思った時点で帝国の船を追うべきだ。
(もしかして、カリンがパレーシア王国に戻ってこれるとでも思っている?)

 その時、私の頭の中に指輪から聞こえたカリンの言葉が蘇った。

(「私はあなたを幸せにする為に存在しています」)
 
 創世の聖女である彼女は世界のために存在するはずだ。
 でも、彼女自身はセルシオ国王の為に存在していると言っている。

(まさか、彼と会えなくなったからと言って、時を戻したりしないよね⋯⋯)

 1度芽生えた疑念は消えない。

 今、私はパレーシア帝国の支援の約束を取り付け最高の形で祖国に帰還しようとしている。
 時を戻されて、これ以上の事ができるとは到底思えない。

「ふふっ、カリンが戻ってくると思っているんですか? ルイス皇子は彼女にご執心、今頃彼女はろくに服も着せてもらえていないと思いますわよ」

 気がつけば、わざとセルシオ国王のトラウマを刺激するようなことを言っていた。
 瞬間、一瞬で私を殺しそうな目つきで彼が私を睨んだ。
(こ、怖過ぎ!)

「アルタナ、留守を頼んだ。今からパレーシア帝国に行って来る」
「では、船をご用意します」
「貿易船に乗っていくから構わない」

 セルシオ国王は私の横を素通りして行ってしまった。
(1人でふらっと行って、カリンが取り戻せると思っているの?)
 
 私は離婚もできたし、祖国に戻り女王に即位し国を建て直しながら吉報を待つしかない。
 盟約の誓いをしていて本当に良かった。

 セルシオ国王の足止めはできなかったが、ルイス皇子が立太子した時点でシャリレーン王国は帝国の支援が受けられる。

 とにかく祈りながら毎日を過ごそうと思った。

「神様、創世の聖女様、カリン様、どうか時を戻さないでください」