「陛下、あれは国際的にも禁止されているお茶なのです。陛下のお楽しみの為に入手しましたが⋯⋯私もこのお茶を使うには罪悪感があります」
私がそう言うと血走った目をしながらエウレパ国王が私に迫ってきた。
「何でもする。お願いだ。お茶を⋯⋯」
私はエウレパ国王に、国が混乱するような指示を出し続けた。
彼は判断能力が鈍っていて、お茶欲しさに私に従い続けた。
♢♢♢
「アリアドネ様、陛下が1年以上も貴方様の寝室から出てこない事に対し、あなた様に疑いの声が上がっております」
「疑い? それって何のことかしら。それでは、この母の形見の指輪に盗聴魔法をかけてくだささる?」
エウレパ王国の発展の秘密の1つに魔法使いワイズの存在があった。
世界にも少数の言われる魔法使いをエウレパ王国は囲い込んでいた。
私は母の形見の指輪に盗聴魔法をかけてもらった。
私が誰かの言葉を盗聴したいとしたら、妹カリンの言葉だ。
彼女が何を考えて、どんな声をしているのか知りたくて仕方がなかった。
「はあ、それで私と陛下の営みをお聞きしたい高貴な方はどこにいらっしゃるのかしら?」
私の言葉に私に疑いを抱いて、詰め寄っていた貴族たちは固まった。
国王を盗聴しようなど、誰にもできるわけがない。
定期的にケントリンにカルパシーノ王国に行って、カリンの様子を見に行ってもらい寄付を届けに行って貰っていた。そして、現在のエウレパ王国の混乱状態をカルパシーノ王国にそっと漏らしてもらった。
彼に指輪を預けて妹に届けてもらうことも考えたが、大切な母の形見を人に預けることなどできなかった。
私は、セルシオ・カルパシーノが自分を解放してくれるのをひたすらに待った。
しかし、彼は対話を要求してくるばかりで、なかなかエウレパ王国を攻めにきてくれなかった。
私はエウレパ王国の内情を知りながら、自分と同じような目に合っている奴隷をすぐにでも解放しようとしない彼に苛立った。
戦争をしたくない気持ちは分かるけれど、それ以上に一生苦しむようなトラウマを抱える苦しみを味わっている子たちの存在を優先して欲しかった。
対話しても通じない相手がいることをセルシオ・カルパシーノだって知っているはずだ。
彼は5年間、エウレパで奴隷をしていた。私も5年間、自分の無力に打ちひしがれ一生消えぬ傷を背負って3カ国で身柄を拘束された。
19歳になったある日、やっとセルシオ・カルパシーノは奴隷解放の為、エウレパ王国を攻めてきた。
私は3年間、部屋に篭り薬学や政治学などの書物を漁りながらケントリンと、人ではなくなったエウレパ国王と過ごしてきた。
「ケントリン、今すぐエウレパ国王の首を切って」
ケントリンは私に言われた通り、エウレパ国王の首を剣で切りはじめた。
首を切るのはスパッとはいかないのか、彼が非力なのか時間が掛かった。
私はエウレパ国王の首を切って、狂った淫猥な女としてセルシオ・カルパシーノの前に現れるつもりだ。その時、やっと私は解放されて、妹と再会し祖国に帰れるだろう。



