双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

 なんだか体に蛇みたいな気持ち悪いものがはっている気がする。

 「アリアドネ、会いたかった。本当に美しいな。こんな綺麗な子見た事ない。これからどんどん熟れて綺麗になるんだろうな⋯⋯」

 若い男の声がして、目を開けると黒髪に青色の瞳をした白い礼服を着た男がいた。彼が私の体を寝巻きの上から指で弄んでいたのだ。

(気持ち悪い⋯⋯部屋に男と2人きりなんて怖い⋯⋯)

「クリスお、じ⋯⋯」
 喉が焼けるように痛くて、声が出せない。

 彼のことは肖像画で見たことがあった。
 皆が彼を美しいと言っていたが、私は彼を見ても恐怖と気持ち悪さしか感じなかった。

「その声、すごく良い。唆られるな⋯⋯なんでも、メイドが僕に抱かれたくて側室たちの食事に毒を入れたらしいね」

 私は耳を疑った。
 メイドとは昨日クレアラ王妃とお話をしていた時に、お茶を淹れてくれたメイドだろうか。

「全く僕をなんだと思ってるんだか⋯⋯この辺りの女は見た目だけでなく、中身もブスばっかだな。醜い女なんて生きている価値ないのに」

 クリス皇子はそう言うと、何かを水に含み私に口づけをしてきた。
(気持ち悪い⋯⋯やめて⋯⋯)
 
「おやめください」
 急に声が出て驚いてしまう。

「せっかく、口移しで薬を飲ませてあげたのに酷いな」
 クリス皇子が指で私の唇の水滴を拭ってくる。
 その指を彼は口に含み恍惚とした顔をしていた。

「自分で飲むので大丈夫です」
「この薬は貴重だから、君にだけ飲ませてあげてるんだよ」
 確かに、これ程、即効性のある薬は初めてだ。
(パレーシア帝国は薬の開発も進んでいるのね⋯⋯)
 
「他の側室も、無事でしょうか?」
「他の子たちは全員死んだよ。君は体内に神聖力が流れているから何とか死ななかっただけ。まあ、この感じだと、もうあんまり神聖力を使えていないんじゃない?」
 私はパレーシア帝国が聖女についての秘密を保有していることを確信した。
 
「聖女について知っている事をお教え頂けませんでしょうか」
 私は自分のことについて知りたかった。
 
「教えて欲しいなら、僕が話をしたくなるように誘惑してきてよ。僕は聖女としての君じゃなくて、女としての君に興味があるんだ」

 足を撫でられて、このまま自分の足を切り落としたいくらいの不快感を感じた。喋られるようになったけれど、体が気だるくて起き上がれない。

 女扱いされることに嫌悪感を感じる。
 私が何もしないで黙っていると、クリス皇子が目に見えて不機嫌になった。

「プライドの高い女って面倒なんだよね⋯⋯僕は皇族しか知らない聖女の秘密も知っているのに今を逃しても良いの? ほら、頑張って媚びて」
 
 彼は自分の欲望を満たすことと引き換えに、帝国の機密情報を私に漏らそうとしている。
 確かにこのような愚かな皇族に会うチャンスは最後かもしれない。
 
 彼が成人したにも関わらず、立太子していない理由が分かった。

 ベリオット皇帝はおそらく、火の魔力持ちのルイス第2皇子を次期皇帝にと考えているのだろう。
 しかし、ルイス皇子はまだ13歳の少年だ。

 現時点でルイス皇子を立太子させてしまうと、クリス皇子側についた貴族たちの反発があるだろう。
 当然、まだ幼い弟より劣っていると見做されたクリス皇子の面目も潰してしまう。

 目の前の愚かな男は、帝国の機密情報を沢山持っている。
 私はどうやら美貌という武器を持っていたようだ。

 正直、美しいと言われても嬉しいと思ったことが1度もない。
 他国でも有名になる程の美貌のせいで、母は暴君に目をつけられ殺された。