双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

僕はまたセルシオ国王への憎しみを募らせた。

 僕はレイリンに断りをいれ、カリンを会場の外へと連れ出した。
 パレーシア帝国と比べて空気も乾燥している上に、風が冷たい。
(カリンが寒がったら、僕のジャケットを貸してあげよう⋯⋯)

 降り注いで来そうなくらい光瞬く星が、カリンの美しさを引き立てていた夜だった。

 僕は彼女が僕を怖がっていた事を思い出し、細心の注意を払いながら彼女に接した。

 気がつけば、昨晩に僕たちが出会った湖のほとりへと足が自然と向いていた。

「ルイス皇子殿下、昨晩はハンカチをお貸し頂きありがとうございました」

 不意にカリンに話しかけられ振り向くと、彼女は徐に胸の谷間からハンカチを取り出した。

 思わず受け取ったハンカチは彼女の温もりが残っていて、僕はそれをギュッと握りしめた。
(なんで、そんな大切な場所からハンカチを⋯⋯もしかして、温めていてくれたのか?)

「このハンカチの刺繍はレイリン様がされたものですか? 本当に見事ですね。私ならば皇家の紋章は簡略化します。この刺繍の繊細で丁寧な仕事ぶりからも、レイリン様の殿下への想いが伝わるようです」

 刺繍の話をカリンがしていて、思わずハンカチをまじまじと見つめた。

 パレーシア皇家の紋章である王冠を被った鷲が描かれているが、カリンはどのようにこの紋章を簡略化すると言っているのだろう。そもそも、紋章の簡略化など許されるものではない。

 僕はカリンの発想が不思議で仕方がなかった。

「刺繍は普通だと思うが⋯⋯」

 思わず漏れた僕の言葉に反応したカリンが口を開く。
 彼女の瞳が辺りを照らすように輝いていて目が離せない。

「もしかして、刺繍よりもハンカチの汚れが落ちていることに注目していますか? 実は私の専属メイドのマリナの仕事です。とっても勤労で頼れる素敵な子なんですよ」