双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

「父上とは今日もお会いできないのか」

「申し訳ございません。ルイス皇子殿下⋯⋯ベリオット皇帝陛下はとても言葉を交わすことができないくらい衰弱しております」

 父、ベリオット・パレーシアが倒れて1ヶ月だ。彼はまだパレーシア帝国の次期皇帝を指名していない。このまま、彼に死なれてしまっては第1皇子のクリスが自動的に皇帝になってしまう。

 父は5人の妻を迎えた。皇位継承権のある彼の子は9人だ。皇后の息子である僕とクリスが皇帝になる可能性が高いと考えられている。貴族たちは僕たち2人のどちらにつくかで自分たちの運命が決まるのを知っていた。

 父は貴族たちから皇位継承権の話を出されると、適当に躱していた。
 僕にはそれが兄弟たちを競わせるのを楽しんでいるように見えた。

 メダン公爵は、先に生まれただけの兄クリスより滅多に出現しない火の魔力を持った僕が皇帝になると踏んだようだ。僕が7歳の時に同じ年の娘のレイリンとの婚約を提案してきた。

 レイリンは7歳にして、周囲も驚くような政治感を持ち完璧な礼法を身につけた女だった。彼女の家柄も含め僕が皇帝になる為には役に立つと思い、彼女と婚約した。

 彼女からしょっちゅう送られてくる、妃教育の成果品である刺繍の施されたハンカチを意識し使うてうようにした。

 メダン公爵がクリスに寝返るとまずいので、彼女に気を遣っているふりをした。
 でも、レイリンと義務的に過ごす時間はとても退屈だった。用意してきたような模範回答を繰り返すだけの彼女に興味が持てなかった。賢いと言われていても、所詮は女としては賢いだけで大した事はないことに気がついてしまった。

 「ルイス皇子殿下、皇帝陛下の容態が思わしくないようですね。もう、こうなれば聖女の力を頼るしかないでしょう。カルパシーノ王国が現在、エウレパ王国と交戦中のようです。おそらく聖女アリアドネはカルパシーノの手に渡るかと思われます」

 父の容態が悪いことはトップシークレットだが、1ヶ月も床に伏していることで距離の近い貴族たちには事実を明かさざるを得なかった。僕が父の部屋の前で門前払いされたのを見計ったようにメダン公爵が話しかけてきた。