双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

 早朝、窓を開けるとセルシオが剣の稽古をしているのが見えた。
(今日は建国祭初日だというのに熱心ね)
 
 回帰前もセルシオは毎朝の鍛錬をかかさなかった。

「カリ⋯⋯いや、アリアドネ様⋯⋯もう起きたのですか?」
「うん、ごめん。急に窓を開けて寒かったよね。私は少し外に出てくるから子供たちをお願いできる?」
 
 私は窓を閉めながら、眠気まなこのミレイアに子供たちを託した。

 胸の鼓動がこのまま死んでしまいそうな程早い。

 でも、手の届くところにセルシオがいて、彼が毎日の日課をこなしている普通の日常を送っていることが嬉しくてたまらない。

 私は階段を駆け下り、外に出て彼の元へと急いだ。
 
「セルシオ! 私も稽古に加えてください!」

 私の言葉にセルシオが驚いた顔をしている。

 確かに前回、彼に剣術を教えて欲しいと頼んだのは、王宮入りしてから3ヶ月後だった。
(まだ仲良くなってないのに、早すぎるお願いだった?)

「カリン、そんな格好では風邪を引くぞ」
 セルシオが私に自分の着ていたジャケットを羽織らせてくれた。
 ほんのりとセルシオの温もりが残っていて、私は幸福感で満たされた。

 私は自分が寝巻きのまま飛び出してきてしまったことに気がついた。
 
 令嬢としてのマナーを身につけたつもりだったのに、セルシオを前にすると何もかもが吹っ飛んでいってしまう。

「申し訳ございません。明日からは訓練に相応しい服装をして参ります」
「俺の稽古に参加するのは、もう決定事項なのか?」

 確かに、まだ稽古に参加して良いとは一言も言われていない。

 どうしたものかと頭を下げると、私の髪をセルシオが撫でてくれる。
 その触れ方が優しくて何だかくすぐったくて身を捩った。

「セルシオ! 今から私の剣技をお見せします。貴方の稽古にもお役に立てるとご納得頂けるはずです。実戦形式で私に襲いかかってきてくださいますか?」

 私は木の根元に立てかけてある木刀を1本手にとった。

 彼は私のレベルが分からず手加減するだろう。
 しかし、私は本気で向かうつもりだ。

 それが、前回、私に熱心に剣術を教えてくれたセルシオに対する誠意というものだからだ。

 私が構え出すと、彼は少し戸惑った顔をした。

「少しだけ稽古をしたら、朝食を食べに行こう」
 彼ののんびりとした雰囲気からも、私の本気が伝わってない事を感じた。