双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

 明日からはじまる建国祭に参加する為に、離宮に滞在しているのだろう。
 帝国の皇子が遠方から小国の建国祭に参加するなんて極めて異例だ。

 パレーシア帝国とは貿易協定を結んでいるので、毎年建国祭の招待状を送っていると聞いた。
 しかし、実際に帝国の皇族が建国祭に参加したのは初めてだ。
(もしかして、この時からカルパシーノ王国の滅亡を企んでいたの?)

 月明かりがルイス皇子の銀髪を照らし、青い瞳はしっかりと私たちを見据えている。
 可愛い子供のマリオがいるせいか、彼は心なしか優しい視線で私たちを見つめていた。
 前回、彼を初めて見掛けたのは建国祭の最終日に行われた私とセルシオの結婚式だった。

 一目でわかる彼の高貴さと美しさに、隣にいるマリオが緊張で固まっている。

「ルイス・パレーシア皇子殿下に、アリアドネ・シャリレーンがお目にかかります」
 私が挨拶すると、ルイス皇子は私の腕を引っ張り手を包んできた。

「こんな土まみれの手をしていたら、アリアドネのふりはできないぞ⋯⋯カリン」
 気がつけば私は手に、パレーシア帝国の紋章と彼のイニシャルが刺繍された白いハンカチを握らされていた。

 私はこの時点でアリアドネと、ルイス皇子がつながっていたことに震撼した。

「カ、カルパシーノ王国は火気厳禁なのです。ルイス皇子殿下⋯⋯この建国祭が終わったら2度とこの地を訪れないでください」

 考える前に言葉を発してしまった自分を後悔した。

 彼を見るなり、魔力によって消えない炎に包まれた王城と息絶えたセルシオを思い出してしまった。

「火気厳禁って⋯⋯確かに俺は火の魔力が使えるが、力はコントロールできるし爆弾扱いされる覚えはないぞ」
 そう言って、彼は右手を天に掲げ炎を出した。

「うわー! 火だ! 怖いよ、カリン! 全部燃えちゃうよー!」 
 突然、その火をみて大きく震え私の足に抱きついてきたマリオを、ルイス皇子の手を振り払い膝をついて抱きしめ返す。
(そうだ⋯⋯マリオも私と同じような炎で全てを失う恐怖を持ってたんだ)

 マリオだけではないだろう。
 今晩の火事は私の家族である孤児院の子たちに消せない影を残した。
 私はこの火事が姉の企みによるものではないことを切に願った。

「大丈夫⋯⋯大丈夫だよ。何があっても私が守るから。全てが燃えてしまっても絶対に守るから」
 私はマリオの怯える水色の瞳を見つめながら自分の覚悟を伝えた。
(今度こそ、大切な人たち、みんなを守ってみせる)

「ルイス皇子殿下、私はこれで失礼致します」

 明らかに戸惑った表情をしているルイス皇子を確認したが、それよりもマリオの心のケアが大事だと思い私はその場を後にした。