双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

「カリン⋯⋯とお呼びください」

 私は自分の中にとんでもない我儘な自分が存在していることに驚いた。

 アリアドネの名前からは連想することのない愛称⋯⋯カリン。

 しかし、私はセルシオの包み込むような優しい声で私の名を呼んで欲しかった。
 回帰前に別れの寸前に初めて呼ばれた自分の名前⋯⋯その時に感じた甘い響きを私は忘れられなかった。

「カリン⋯⋯では、案内させてくれ。子どもたちも迷子にならないようについてくるんだぞ」
 セルシオはやっぱり優しい。

 私の言っていることに疑問が生じてもおかしくないのに、尋ねずにいてくれる。
 他の者に案内を頼めば良いのに、自ら案内を申し出てくれる。
 今すぐ彼に愛を伝えたい気持ちを閉じ込め、私は子供たちと彼の後ろをついて行った。

♢♢♢

 温かい部屋に案内され、清潔な寝巻きに着替えさせ子どもたちを寝かしつけることに成功した。

 セルシオの心遣いにより、広い部屋で皆一緒に寝付くことができている。
 子どもたちは環境の変化の漠然とした不安に怯え、寄り添うあうように布団の中で固まっていた。
 
 私は今日起こったことを考えると気持ちが昂って眠れなかった。
(セルシオ⋯⋯今度こそ、あなたを守り抜き幸せにする⋯⋯)

 火事のことや姉の企みについても考えなければならないのに、私の心はセルシオに会えた喜びで満ちていた。
(今晩は眠れそうにないわ)

 突然、マリオがムクっと起き上がって部屋の外に出るのが見えた。
 私は慌てて彼の後を追った。
 気がつけば、城壁を囲む湖のほとりまで来ていた。

「マリオ! ここから先は湖なの! 危ないから部屋に戻ろう! 不安で眠れないなら一晩中あなたを抱きしめて眠るから」

 夜は暗くてで湖と地面の境が見えずらい。
 私はマリオが湖に落ちそうになるすんでのところで、彼を後ろから抱きしめた。

「ちょっと眠れなくて散歩してただけだよ。もう、子どもじゃないんだからそんな心配しないでよ」

 マリオが私の腕の中で笑っている。
(十分、子どもなのに大人ぶって⋯⋯)

「ふふっ、私も指輪のなる秘密の種をこっそり埋めようと部屋を抜け出しただけなのよ。マリオも手伝って!」

 私は盗聴魔法つきのアリアドネから貰った指輪を土に埋めようと、湖のへりの辺りの柔らかい土を掘り出した。

「指輪って埋めると、指輪のなる木がなるの?」
 マリオの顔が楽しそうな笑顔に変わり私はホッとする。

「そうよ! これはここだけの秘密。でも、深く掘らないと泥棒に盗まれちゃうかもしれないから出来るだけ深い穴を掘るのよ」

 この指輪には盗聴魔法が施してあるから、利用する時が来るまで音の届かない土深くまで埋めた方が良いだろう。
 私とマリオは手で必死に細長く深い穴を掘り始めた。

「これで、指輪のなる木が生えるかな?」
「きっとなるわよ。もし、たくさんの指輪がなったらその指輪を売って大儲けしちゃおう」
 私は指輪を埋めると、マリオとハイタッチした。

「よく、そんな出鱈目を子どもに吹き込めるな」

 笑い声に振り向くと、そこには私が回帰前に生贄にしたルイス皇子がいた。