双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

 資源が豊富なことと、勤勉な国民性もありカルパシーノ王国はあっという間に豊かな国となった。しかし、長期に渡りカルパシーノ地方から奴隷を調達していたエウレパ王国は人攫いをやめなかった。

 1ヶ月もあれば国を周遊できてしまう程度の大きさのカルパシーノ王国。この小さな国の民を俺は家族のように思っていた。

 そんな大切な家族を攫い奴隷として扱うエウレパ王国は対話のできない国だった。
 そして俺たちは囚われた仲間たちを助け出すためにエウレパ王国を攻めた。

 できれば戦争を起こすことは最終手段にしたかった。
 
「エウレパ国王! 投降しろ!」
 エウレパ王国の城の構造は勝手知ったるものだった。
 俺たちは奴隷を解放することに成功した。

 灰色の髪をしたエウレパの近衛騎士団長を捉えると、あっさりと他の騎士たちは投降してきた。

「無駄ですよ。カルパシーノ国王陛下⋯⋯エウレパ国王陛下は悪女アリアドネに夢中で、政務ほったらかして寝所に篭ってます。この非常時に、何のご指示も出してくださらなかった」

 灰色の髪をした近衛騎士団長は何もかも諦めたような目で俺に囁いた。

 あっさりエウレパ王国が落とせてしまったのも、この国の騎士たちに覇気がなかったからだ。
(アリアドネ⋯⋯アリアドネ・シャリレーンか⋯⋯)

「なんかすごいですね。今、国が滅びようとしている時にまぐわってでもいるんでしょうか。どうやら、噂通りの傾国の悪女みたいで⋯⋯これで、彼女が滅ぼしたのは3カ国目ですよ⋯⋯陛下は彼女を娶ったりしないですよね」

 カルパシーノ王国で騎士団長を任せているアルタナが不安げな顔で俺を見つめてくる。

 今、明らかに俺たちがエウレパ王国を滅亡させた。

 それなのに、俺も含め誰もがエウレパ王国のあっさりとした幕引きにアリアドネの影を感じている。

 エウレパ城は奴隷時代に勝手知ったる場所で、俺はまっすぐにの王の寝室に向かった。

 まるで待ち構えていたかのように、扉が開く。
 
 扉を開けたのは返り血を浴びた茶色い髪に緑色の瞳をした無表情の騎士だった。
 片手には忘れもしない長年恨んだエウレパ国王の首があった。 
 
「セルシオ・カルパシーノ国王陛下に、アリアドネ・シャリレーンがお目にかかります」
 艶やかな手入れの行き届いたピンクゴールドの髪に琥珀色の瞳。

 絶世の美女と言われるアリアドネ・シャリレーンは見惚れるほど美しい動作で挨拶をした。
 
「手土産にエウレパ国王の首をお持ち致しましたわ。陛下のような生まれの方が、私の子宮にまで手が届くなんて本当に男性の人生って夢がありますわね」

 とても優雅に卑猥なことを言うアリアドネの瞳は、恐ろしく美しいと同時に深淵に引き摺り込むような暗さを持っていた。

 彼女は当然のように、俺が彼女を娶ると思っているらしい。

 シャリレーン王国は他国と国交を持たない、宗教国家だった。

 特殊な宗教を信仰している為、他国も侵略したりしようとはしなかった。

 しかし、ルネバ国王は美貌のアリアドネの母親に目をつけた。
 シャリレーン王国には当時騎士団さえなかったらしい。

 彼女の父親であるシャリレーン国王は自ら生き抜く為、ルネバ国王に美貌の妻を差し出した。

 ルネバ国王は、暴君で有名だった。おそらく彼女は散々弄ばれた上に死んだのであろう。

 そして、当時、力を持っていたルネバ王国を恐れて次に差し出されたのが神聖力を持つ14歳のアリアドネだ。

 アリアドネはルネバ国王の側室におさまった。その1年後、ルネバ国王は不審死を遂げ国内が混乱した。

 弱体化したルネバ王国はバルトネ王国に滅ぼされ、アリアドネはバルトネ王国に引き渡された。

 バルトネ王国では側室が全員不審死を遂げ、王国は混乱に陥った。

 その後、アリアドネはバルトネ王国を滅ぼしたエウレパ国王の側室におさまったと聞いていた。

 エウレパ国王は多くの貴族家から側室をとっていた。しかし、アリアドネがエウレパ国王の寵愛を独り占めし、バランスは崩れた。その頃には彼女は『傾国の悪女』と呼ばれるようになっていた。

 俺は彼女の境遇に同情した。

 おそらく彼女は生きるのに必死だったのだろう。
 奴隷であった時の自分も、常に神経を尖らせて生きていた。
 俺には仲間がいたが、彼女には誰も信頼できる人間がいないように見えた。

「アリアドネ・シャリレーン⋯⋯もう、ゆっくり休むといい。俺は君を正妃として迎えるつもりだ。君のことを家族として守って行くよ」