城門を守る当番の1人はセルシオに似ていることが自慢のカンテスだった。
あの日、息絶えた彼の首を切ってセルシオに偽造してしまおうと私は考えた。自分の残酷な考えに鳥肌が立つ。
私はセルシオの事となると理性を失うのだと改めて思い知らされた。
子供たちは眠いのか、城壁の高さに緊張しているのか皆無言になった。
「アリアドネ・シャリレーン王女殿下であらせられますか?」
私を見てカンテスが戸惑った顔をしている。
アリアドネと身体的特徴が似ていても、見窄らしい格好をしている私に疑問を抱いているのだろう。
思えば姉は結婚こそ3度しているが、正妃として迎えられた事がない。
それゆえ、今回の結婚で初めてアリアドネ・カルパシーノと名前が変わる。
シャリレーン王国は君主が不在で国こそ力を失いながらも残っている。
シャリレーン王国は宗教国家と言った方が良いほどに、王族は教祖として神のように崇められる。
直系のみが王位を継承できるので、現在、王位継承権を保持しているのはアリアドネと私のみだ。
実質、私は捨てられているので、アリアドネのみが王位継承権を持っていると言った方が正しいだろう。
私と違いシャリレーン王国の姫として育てられた姉は、シャリレーンという名にも誇りを持っていたのかもしれない。
「はい、私はアリアドネ・シャリレーンです。結婚式は5日後だとは分かっています。でも、明日から建国祭ですよね。セルシオ・カルパシーノ国王陛下のパートナーとして少しでもお手伝いがしたいと思って早めに王宮入りしたいのです。道すがら孤児院の火事を見かけて子供たちを保護しました。夜も遅いし入れて頂けますでしょうか」
私の言葉と共に城門が開く。
結婚式は建国祭の最終日に行われる。
回帰前の私は結婚式当日まで、姉の教育を受けてからこの門を潜った。
「カリン、本当に王女様なのね」
「ミレイアってば、カリンって呼ばないように注意しなきゃでしょ。慣れない場所で大変だと思うけれど、何か不都合なことがあったら直ぐに私に言って」
耳元で囁いてきたミレイアにそっと小声で返した。
「こんな時間に城門が開くのが見えたから来てみたのだが、何かあったのか?」
ずっと聞きたかった愛おしい声に前を見ると、そこには会いたくて仕方がなかったセルシオがいた。
「セルシオ・カルパシーノ国王陛下に、アリアドネ・シャリレーンがお目にかかります。本日からお世話になります」
裾が少し焼けてしまったネグリジェを少しを持ち上げながら挨拶をする。
自分でも驚くほど声が震えているのが分かった。



