目に映るのは、腰を抜かし床にへたり込む男達。
放心したような顔は生気を失い、虚ろな瞳が細かく揺れていた。
やがて、無音の時が訪れ……私はただ立ち尽くすしかなかった。
手の中には鉄パイプの重み。
振り下ろしきれなかった、腕。
止まらない震え。
その震えごと、誰かの温もりが包み込んでくれている。
私の手をしっかりと握る、“彼”の手。
「もういい」
枯れかけた心に水を注ぐような、優しい声だった。
「ジロー、さん……」
見上げれば、すぐ傍に彼がいた。
彼の銀色が、目映かった。
穏やかな光を宿すジローさんの瞳に、胸の奥に押し込めていたものが堰を切ったように溢れ出しそうになった。
「私、できません……」
「ああ」
「やっぱり、私にはできないんです……人を、こんな物で殴るなんてこと……!!」
「わかってる」
無理だった。
臆病者と言われても、裏切り者と罵られたとしても、無理だったんだ。
抵抗できない人間に凶器を振り下ろし、血を流させたりしたら……私は人の心を捨てたことになる。
私自身、抗えない暴力に支配される恐怖を、嫌というほど刻み込まれたというのに。
「わかったから……放せ」
無愛想な声色の奥に、確かな優しさがあったから。
“もう大丈夫だ”
“そんな物を持つ必要はない”
ジローさんの柔らかい眼差しが、そう告げるから。
鉄パイプを、今すぐに手放そうと思った。
人を傷つける道具を、もう握っていたくなかった。
ううん、本当は……彼に止められていなかったら、私はこれを地面に叩きつけていただろう。
翔桜の男達を傷つけたい気持ちなんて、これっぽっちもなかったのだから。
それを知っていたからこそ、ジローさんは私の手を受け止めてくれた。
私が、タイガの言葉を実行できなかったこと。
人に痛みを与えることで、“仲間”だと認めてもらうなんてことを。
後にも引けず、前にも進めない。
そんな私を、自分が阻むことで救ってくれた。
口数が少なく、ぶっきらぼうで冷たく見えても、理解不能なことばかり言っていても。
ジローさんは、愛をもって接してくれる。
私を見捨てずにいてくれる。
だから私は、ますます彼から離れられなくなるんだ。
「あの、手、カチカチになっちゃって……放せないんです……」
極度の緊張のせいで指が硬直してしまい、拳を開けなくなっていた。
私、どこまで情けないんだろう……。
恥ずかしさをこらえて、ちらりとジローさんに助けを求める。
顔に熱が集まるのがわかる。きっとすごく赤くなってるはず。
魅惑の王様はそんな私を一瞥して……
小さくため息をつく。
私は蒸発して消えそうだった。っていうか、消えたかった。
わかってた。
どうしようもないヤツだってことは、自分が一番。
でもあからさまに態度に出されると、けっこうダメージは大きい。
それでもジローさんは、私の手を取って一本一本、丁寧に指を解いていってくれた。
そして鉄パイプを取り上げると、そのまま地面に投げ捨てる。
私は肩身の狭い思いで、縮こまるしかないのに。
ジローさんはまだ私の手を握ったまま、フェロモンムンムンの艶やかな眼差しと声で、囁いた。
“どこまで可愛いの、お前”


