90秒で始まる恋〜彼と彼女の攻防戦

「あ、さ、ひだ」

ほら、もう一度言えとスラックスのポケットに両手を入れて偉そうに顎先で指図され、渋々呼ぶ。

「あ、さ、ひ」

間を開けたのは私の微かな抵抗だった。

だが、それがいけなかった。

「生意気」

近い顔がグイッと更に近寄り、唇がそこまで…

うわ…わわわわわ
キスされる…

避けようとパイプ椅子の背に体重を乗せたらどうなるのかなんて考えもせずに背を倒すと、ぐらっと後ろに揺れ、スローモーションのように後ろに倒れていく。思わず私が伸ばした手が掴んだものは、慌てて私を助けようとする向井さんのネクタイ。

そして…

体を床にぶつけた痛みの後、唇に触れた温かな感触に目を見開き固まっていた。

「積極的だな…」

笑みを浮かべ揶揄う彼、否定しようとした私、だが、今度は彼の方から唇を塞がれていた。