継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

「覚えていないのか? パイを上手く食べられなくてドレスを汚した時、亡きレドモンド卿に叱られたことがあっただろう」
「パイ……お父様に、叱られた?」
「他にも、スープを飲むのが下手で口元を汚して」

 ヴィンセント様は懐かしむように目を細め、次々に私の古い記憶を語り始めた。
 それらは、まだお母様がお元気だったころのこと。私が、幼かった頃の思い出ばかりだ。

 お母様は、まだ小さいのだからと笑って許して下さったけど、お父様は甘やかしてはならないと言って、いつだって行儀作法に厳しかった。

 特に、お屋敷の外で粗相をすると、こってりお説教をされたものだわ。それが、幼かった私は意地悪のように思えて、泣いて怒ったこともあった。

「お父様は意地悪です。そう言って、よく泣いていたじゃないか」

 まるで、私の心の内を見透かしたかのような言葉に、息が止まるかと思った。