気持ちを落ち着けようと息を吸い、ふと思う。

 あの方も、どこかのご令息なのかしらと。

 もう一度、彼の姿を目で追うと、扇子を口元に当てた継母が私の耳元に顔を寄せてきた。

「諦めなさい。無能なお前には縁のない男よ。まぁ、そこらの小娘にも言えることでしょうけど」

 小バカにするような声に背筋が強張った。

 継母が何を言っているのか分からずに黙っていると、悪趣味な扇子がパチンと閉じられた。

 顔をあげた継母は、扇子をすっと動かした。

 指し示された先を見て、周囲で微笑む令嬢たちの視線が彼へ向けられているのだと気付いた。
 幾人もの令嬢たちが、ひそひそと話しながら彼を見ている。

 彼はそのことに気づいていないのだろうか。
 にこりとも笑わず、着飾った令嬢の誰一人とも視線を合わせていない。