もう一度、ハンカチを拾ってくれた方へと視線を戻した。

 お父様と何か話し始めた彼の髪は、とても美しいプラチナブロンドで、きっちりと一本の三つ編みにして結ばれとある。あれを解いたら、さぞ豊かで長いだろうな。

 ふと想像したのは、彼が長い髪を解いたところ。どうしてか、まるでお姫様のようにブラシを当てて髪を梳く姿が浮かんだ。それは絶対にないだろう、おかしな姿だ。

 思わず笑いそうになり、慌てて口元にそっとハンカチを押し当て、笑い声を飲み込んだ。

 人を見て笑うなんてはしたない。継母に見つかったら、そう言われて叩かれるに決まってる。人混みの中でも、隠れながらあの扇子で背中やおしりを強かに叩かれるのよ。

 そんなの絶対に嫌だもの。気付かれないようにしないといけないわ。

 それにしても、にこりとも笑わない人が、誰かに髪を梳いてもらっていたら、ちょっと面白い姿よね。
 お礼は云うのかしら。あるいは、当たり前のような顔で手入れをしてもらっているのかもしれない。どこかの有力貴族なら、ありうるわ。

 考えれば考えるほど、笑いが胸の内で沸き上がった。