継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

 引きずられるように歩きながら、落胆に俯きかけたその時だった。

「お待ちください」

 少し低いけど爽やかな声がかけられた。
 継母は、男の声と分かるや否や足を止めた。

「ハンカチを、落としましたよ」

 涙を零しそうになるのを堪え、私は顔を上げた。
 そこに立っていたのは、魔術師団の正装に身を包んだ綺麗な男の人だった。その筋張った大きな手が、私の宝物(ハンカチ)を差し出している。

 瞬きを繰り返し、おずおずとハンカチを受け取る。

「……ありがとうございます」
「いいえ。今日はずいぶんと風が強いので、お気をつけて」

 ずいぶんと背の高いその人はにこりとも微笑まず、軽く頭を下げると私のお父様に近づいていった。

 ハンカチを握りしめ、私はそっとその人の様子を伺った。
 お父様が長を務める第五師団の方かしら。それで、見回りをしていたのかもしれないわ。あるいは、どこかの貴族のご子息で招待客……

 でも、それなら魔術師団の礼服ではなく、周囲の令息のように着飾ってくるわよね。

 周囲をそっと伺ってみたけど、魔術師団の礼服を着る方は他にいないわ。