継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

 いつの間にか遠ざかってしまった砦と彼の姿を思い出すと、胸がじわじわと熱を帯びた。

 あの砦に、まだいるのかしら。

 ほんのり温かくなる胸元で手を握りしめ、懐かしい記憶に思いを馳せた。あのとき感じた驚きが、初めての恋だったのかもしれない。

 それは今でも続いていて──思い返したら頬まで熱くなり、堪らず、とびっきり大きな息を吐き出してしまった。

 私を見たダリアは心配そうに眉をしかめる。

「ヴェルヘルミーナ様、ご不安でしょうが……」
「大丈夫よ、引き返すことが出来ないのは分かってるわ。それより、お屋敷に着くのは、あとどれくらいかしら?」
「もう間もなく到着します」

 ダリアの言葉にうなずき、一度深く息を吸いこむ。

 おぼろげな幼い記憶などに縋っている場合ではない。私の目的は、セドリックの為にレドモンド家を守ること。

 甘い恋はいらない。
 継母を追い出せるなら、政略結婚も辞さないわ。