継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

 堪らず一歩後退りたくなった。それでも、震えだしそうな足に力を入れて奥歯を噛み、耐えながら継母を真っすぐ見つめた。

 口答えは許さない。そう叩き込まれてきたけど、これだけは引き下がれないわ。浪費家の継母にレドモンド家を好きにさせる訳にはいかないもの。

 脳裏に浮かべたのは、薔薇の花に包まれた東屋(ガゼボ)で笑う愛しい弟の後ろ姿。その横には、まだ見ぬお嫁さんがいる。
 心優しいセドリックなら、きっとお嫁さんを大切にして、この領を守ってくれるわ。そのためにも、レドモンド家を没落貴族になんて、させてなるものですか。

 私の心が見えたのだろうか。継母の目がつまらないものを見るように、すっと細められた。

「無能なお前を迎えたいだなんて、ロックハート家も見る目がないわね」

 鼻で笑い、継母は悪趣味な扇子を開いて口元を覆った。

「お前が望むのであれば、ぜひにも、長男の嫁に来て欲しいですって」
「……ご長男、様?」
「稀代の魔術師と謳われる、魔術師団の団長ヴィンセント・ロックハート」

 継母のしたり顔に、背筋の凍る思いがした。