背筋が冷えていく。

 私の目を覗き込むように継母は顔を近づけた。それから視線を逸らすことも出来ずに硬直していると、赤い唇がつり上がる。
 まるで、何でもお見通しだと言わんばかりの薄気味悪い笑みに、私の心拍がひときわ激しくなった。

 動揺を気付かれてはダメよ。
 この人は些細な変化すら喜んで、私をなじる理由にするのだから。

「……ロックハート家と、お手紙のやり取りは何度かありますが、それらは、お姉様の為に──」
「お前の魂胆はどうだって良いんだよ」
「魂胆などありません!」

 継母は手にしていた扇子をパチンっと鳴らして閉じた。
 心臓が跳ね、背筋が強張った。

「夫人が、結婚を進めたらどうかと仰られたのよ」
「……結婚……なんのことですか、お継母様?」
「そんなにロックハートと仲良くしたいのなら、結婚すればいいわ」
「ど、どうしてそういうことに……そもそも、ロックハート侯爵様から、そういったお話をいただいたことは一度もございません!」
「その女侯爵に王都で会ったけど、お前の婚約を持ちかけたら乗り気だったわよ」