継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

 ドレスを摘まみ上げ、急いでエントランスに向かうと、私をヘルマと呼ぶ声が聞こえてきた。
 機嫌が悪いにしては、騒々しさが小さいように思えた。私を探しているけど、いつものような金切り声ではないし、どたばたと走る品のない足音も聞こえてこない。

 とはいえ、悠長に構えている場合ではない。いつ機嫌が悪くなって、周りに八つ当たりを始めるか分かったものじゃないわ。侍女たちに、もしものことが起きて変な噂を立てられでもしたら大変だ。

 殴られるのは、私の役目だもの。急がなくては。

 角を曲がった廊下の先で、エントランスから繋がる大階段を上がってくる継母と出くわした。

「お帰りなさいませ、お継母様」
「ヘルマ、私の出迎えもせず、何をしていたの?」
「申し訳ありません。各方面への書状を認めていました」
「ふんっ、相変わらず、金勘定ばかりね」

 階段を上がりきった継母は、何かを探るように私を見下ろす。冷ややかな視線がまとわりつき、身体のいたるところに刺さっていく。まるで値踏みをしているようだった。