継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

 悶々としながら、幼いころ訪れたことのある第五師団の砦を思い出した。
 決して、嫌な空気はなかった。むしろ、活気があって楽しそうに見えたのよね。

 お父様は師団で慕われていると、亡きお母様から聞いたこともあるし、皆がお父様を見る目は優しかったのも覚えている。あの頃は幼ないながら、父を誇りに思ったものよ。

 男の人が多かったかしら。でも、女性もいたわ。

 師団の皆さんは本当に優しい方ばかりで、幼い私にもよくしてくださった。魔法が使えないことを悩んでいた私に「時が来れば使えるようになりますよ」と声をかけてくださった方もいた。その時、お父様も、そうだと言って微笑んでくださって──

 あれ? お父様が、微笑んでいた?

 遠い記憶を呼び起こしながら、再び、妙な違和感を得た。
 商売や領地のことは亡きお母様に任せきりで、娘の私にはいつむ冷たい態度だったお父様。

 本当に、冷たかった?

 セドリックが生まれた頃は、もっと、こう──

 小骨が喉に突っかかったようなもどかしさに小さく唸っていると、表が騒がしくなった。