継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

「……ここは」

 まさに一瞬のことだった。
 呆然としていると、ヴィンセント様が「ヴェルヘルミーナ」と私呼んだ。

「おいで。アーリックは、ここからそう遠くない」

 優しいバリトンボイスを振り返ると、馬を引くヴィンセント様が、私に手を差し伸べていた。

 手を取り馬上に乗せられると、森の緑が少し近くなったような錯覚をおこした。
 頭上を見上げていると、ヴィンセント様も馬にまたがり、私を抱きしめるようにして手綱を握った。

 ヴィンセント様に背中を預け、舗装されていない獣道も同然の森を進んだ。ダリアも、慣れた手綱さばきで後ろからついてくる。

 静かな森はほどなくして開けた。
 その先に広がった光景は、想像していたものと全く異なり、思わず感嘆の声を上げてしまった。