継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

 魔法言語を目で追って観察していた私の顔が面白かったのかしら。それとも、目を瞑れといわれてがっかりしたのが、顔に出てしまったのかもしれない。

 仕方ないじゃない。目の前で魔法を目の当たりにしたのよ。教本でしか見たことのなかったものが、手で触れられそうなところにあるんだもの、感動するに決まってるわ。

 だけど、笑われたのは恥ずかしいわけで。
 顔から火が出ていると勘違いするほど頬が熱くて、私は目を瞑るのにかこつけて顔全体を手で覆い隠した。

 ヴィンセント様が静かに何かを唱えられた。

 きっと、この転移魔法を発動する詠唱ね。
 ドキドキしていると、やわらかく優しい風に包まれ、バラの香りが一層濃くなったように感じた。

 ふわりと体が軽くなる。
 ここではないどこかへと引っ張られるような感覚に、胸の鼓動が早まった。

 その十数秒後、ヴィンセント様の「目を開けてごらん」という声に促され、顔から手を放してそっと瞼を上げた。

 優しい木漏れ日を感じ、私は深く息を吸い込んだ。目の前には、鬱蒼(うっそう)と茂った森が広がっている。
 綺麗に手入れをされた庭も、薔薇の花もない。