継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

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 声が聞こえる。誰かしら。
 何か、大切なことを言っている気がするわ……

「目を覚まして。あなたの──を思い出して」

 嗚呼(ああ)、肝心な部分が聞こえない。
 霧がかかっているようで、風が轟々(ごうごう)と吹くように言葉を消してしまう。

 私は何を忘れているというの。何を思い出さなくてはならないのかしら。それは、ヴィンセント様のことなのか。それとも、もっと別の何か──

 重たい目蓋をあげると、見慣れないベッドの天蓋が視界に映った。
 だけど、すぐには状況が理解できず、豪勢なベッドの上に横たわったまま、ぼんやり夢と現を漂っていた。

 ベッドはとてもふかふかで、頭がたくさんのクッションに埋もれている。シーツも真っ白でさらさら。仄かに香るのはラベンダーの精油を薄めたものかしら。とても心地が良いわ。
 こんなに気持ちのいい寝具で眠るのは何時ぶりかしら。お母様がお元気だったころ以来──再び目を閉ざしそうになった私は、ハッとして体を起こした。

「お目覚めですか、ヴェルヘルミーナ様」