継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

 大きく筋張った手が伸びてきたことで、思わず目をぎゅっと閉じてしまった。
 指が髪に触れるのを感じた。
 そっと目を開けると、花びらを摘まんだヴィンセント様の手が視界に入った。

「思い出してくれたかい?」
「……はい。うっすらでは、ありますが」
「正直だな」
 
 彼と過ごした時間をはっきりと思い出したわけではない。それを申し訳なく感じて、うっすらと言ったからか、ヴィンセント様は可笑しそうに笑いを堪えた。
 女性嫌いという噂は、嘘だったのかしら。でも、どうして今までご結婚されずにいたのかしら。それに、どうして私なのか。
 疑問は山のようにあった。だけど、それを口にしていいのか分からなかった。

「もう三十間近の私だが……結婚の申し入れを、受けてはくれないだろうか?」
 輝く琥珀色の瞳を見つめ、私は息を深く吸い込んだ。

「お受けします。その代わり……条件がございます」

 一瞬ほっとした顔をしたヴィンセント様が、眉間に小さなしわを寄せた。

「私の継母を、レドモンド家から追い出すご協力をお願いします! それが叶うのでしたら、貴方様の妻として一生尽くしましょう」