継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

 必死に、三年前の婚礼を思い出そうとしていると、ヴィンセント様の薄い唇が、ほんの少しだけ弧を描いた。
 その静かな微笑みは、幼い記憶に残っている銀髪の青年と重なる。

 そうだわ。お父様が長を務めていた魔術師団の砦で、何度も会った銀髪の青年よ。彼は自分のことをヴィンスと名乗っていたけど。

 彼の微笑みに似ているわ。
 
 悪戯な風が吹き抜け、バラの花びらが香りとともに舞い上がった。
 咄嗟に乱れる前髪を抑え、私はハッと気づいた。

 私の大切なハンカチを拾って下さった方がいたじゃない。彼も、とても美しい銀髪だった。
 ご令嬢の皆様の視線を集められる様子を見たお継母様が、縁のない男だから諦めろと言ったのよ。

「あの時の……魔術師団の?」

 俯きかけた顔を上げると、いつの間にかヴィンセント様は私のすぐ側に立っていらした。
 ただでさえ背の高いというのに、座っている私は見下ろしてくるその大きな体躯が威圧感を与えた。
 堪らず体を強張らせて息を呑んだ。