「ネリウス王子、女好きは本当……っと」

わかりきっていたことだが、セリアにどう報告すればよいだろう。

このままセリアが拒否を貫くならば、メメリアも対応を考えなくてはならない。

メメリアにとってセリアは最も大事な人。

ネリウスがセリアを傷つけるような人物ならば、メメリアはこの婚姻を認められない。

セリアを王宮から逃がすか、婚約破棄のために何かしらを仕掛けるか。

(最悪、ネリウス王子をこの手で……)

ぐっとペンを握る手に力が入る。

案の定、ペンは儚くポキッと真っ二つに折れてしまった。

またやってしまったと、メメリアは壊れたペンに謝罪をして破片を集めてティッシュに丸めた。

「同室の子とやら、帰ってこないのね……」

先に寝てしまおうか。

明日からイライラはもっと募るだろうから、休めるうちに休むべきかもしれない。

いや、いつでもネリウスを絞めれるよう身体を鍛えておこうか。

思い立つがままに行動し、メメリアは立ち上がると拳を握って前方にパンチ。

そして器用に身をひるがえして足を振り上げると、濃紺の遮光カーテンに直撃して足でめくりあげてしまう。

閉めていたはずの窓が開いており、夜風がカーテンの音を鳴らす。


あっと驚くほど大きな満月に、人の形の影がかかっている。

一点の赤色が、カーテンがめくれたことで驚愕に見開いていた。

「きれい……」

思わず呟いてしまった本音。

無意識に近かったため、気づいた瞬間あわてて口をおさえて後ずさる。

(なに、誰!? って、この人……)

ネリウスの後ろに控えていた名無しの権兵衛だ。

シルヴィアに覚えてもらっていないだけで、名前はあるのだろうが今はそう仮称するしかない。