あれを”華やか”で済ませて良いものではないと、メメリアは殴りたい衝動にかられながらもグッとこらえる。

(我慢よ、メメリア。あれくらいならよくある光景。問題になるのはお世継ぎのことで……)

「もぉー、王子ッてばぁ」

「そうだ、君に似合いそうなイヤリングをこの前宝石商が持ってきていたな。後日、贈るよ」

「きゃっ、うれしい」

イライラ……とすでに我慢の限界だと、メメリアは震えだす。

こんな男が大事なセリアの夫となるのかと、考えれば考えるほど腹立たしい。

相手が王子でなければ間違いなく殴るまたは蹴ると、俊敏に飛びかかっていた。

これからこのような葛藤と戦わねばならないのかと頭を抱えていると、一瞬、赤い視線がメメリアに突き刺さる。

肌をひりつかせる視線に顔をあげると、ネリウス王子のそばに控える従者と目が合った。


赤い宝石。
まるで心臓を射抜かれた気分だ。

夜色の髪に隠れた赤い瞳はアンタレス。

色白の肌に赤い瞳はギョッとするほどに魅入られる鋭さをもち、メメリアは目が離せなくなった。


「――あの後ろの方は……」

「後ろ? あぁ、従者の方ね。名前は……あら、なんだったかしら」

宮で働く者は覚えているのに、とシルヴィアは首を傾げて悩みだす。

それから王子の邪魔はせず、様子見のままシルヴィアに案内されて侍女たちの部屋に通された。


仕事は明日から。

相部屋で、同室の侍女に仕事を教わるようにと言われ、今日は休むこととなった。

カバン一つにまとめた荷をほどき、中身を整理して一息つく。


ふと、あの赤い瞳を思い出して心臓がざわついた。

胸に手をあて、切り替えようと今日の記録を日記に書き出した。