「”女好き”、”遊んでばかりのぐうたら”、”とんでもないナルシスト”。どうしたらそんな王子としてふさわしくない悪評だらけになるのかしら」
「あー……」

セリアには同情する。

和平のために道具として扱われるのはまだしも、相手があきらかに愚鈍だとわかっている。

肖像画をみせてもらったことはあるが、たしかに自惚れたくなるのもわかる容姿……だったが、それで悪評がたつとはよっぽどのこと。

嫁ぐまでにはまだ半年の猶予があるが、このままではセリアは涙に暮れるばかり。

誰にも会いたくないと部屋にこもってしまい、メメリアは追い出されてしまった。

最悪首を吊ってしまうのでは、と恐ろしい想像をしてメメリアは何がなんでも阻止せねばと義務感に駆られる。


「案外、ウワサもあてにならないかも!?」

セリアの部屋の前で勢い任せに叫ぶ。

だが扉の向こうから返答はなく、この程度でセリアが釣れるわけもなかったとため息を吐き……。

シクシクと涙に暮れるばかりのセリアにこれ以上強く出れず、メメリアは扉に背を預けて待つことにした。


メメリアは元々孤児で生き倒れていたところを、当時聖女見習いであったセリアに助けられた。

名前を持たなかったメメリアを授けてくれた。

今でこそ立派な聖女であり、王女であるが、こんな形で結婚話が出てくるとは思いもしなかったため、珍しく悲痛にワガママをみせていた。

セリアは恩人だ。

何があっても守りたい方であり、メメリアにとって己が命より大切な人。

なんとか助けてあげたいが、国の問題に”たかが聖女見習い”が口出しするわけにもいかない。

どうしたものかと思い悩んでいると、扉の向こうから衣擦れの音がした。


「……セリア様?」

返事はない。

セリアはメメリアと同じように扉に背を預け、座りこんだようだ。

扉越しにセリアを感じ、メメリアは近くにいれる喜びに口角を緩める。

「あのね、メメリア。私、隠していたことがあるの」

「隠していたこと……ですか?」