サソリは聖女見習いの激愛に猛毒を刺す【一話だけ】

「ネリウス王子は昔からああだ。王位も望んでいない。王や皇后が何を言っても響かないんだ」

「でも皇太子でしょ?」

「……そうだ。唯一の皇太子。他の王子は愛人の子だ」

ヒュアデス王国は一夫一妻制の国。

つまり正式な妻となるのは皇后だけ。

正当な王位継承権をもつのはネリウス王子だけであり、なんとしてでもネリウス王子に王位に就いてほしいと願うのは皇后だろう。

となれば、リヴィアンの主は皇后である線が高い。

どんなにダメ王子でも、リヴィアンはネリウス王子を王座に就かせなくてはならないんだ。

「だったらなおさらネリウス王子を更生させるべきよ。あたしはセリア様の憂いを排除したい。あなたはネリウス王子を正したい。……目指すは同じ場所だと思うけど?」

「そう簡単な話ではない」

「リヴィが試したわけではないでしょ? やってみようよ、ね?」

セリアに幸せになってほしい。

好きな人と結ばれない引っかかりがあるから今まで口に出さなかった。

ならばセリアの心が前向きなれる選択肢を作ればいい。

婚約破棄が狙いだったが、両国の関係を悪くしてまでセリアは我が儘を言いたくなかったはず。


メメリアに出来るのは、セリアを最大限に尊重すること。

意志をはく奪したいのではない。

セリアの選んだ道を全力で肯定したいんだ。


(それに……)

メメリアにはもう一つ、狙いがある。

それはもちろん、リヴィアンの攻略だ。

たいしてリヴィアンのことを知っているわけでもないのに惹かれてしまった。

一目惚れと言っていいだろう。

なんと抗えぬ引力か。

毒には様々な種類があるけれど、サソリの毒は死に至る猛毒だ。

毒に耐性をつけたメメリアが抗えないサソリ。

空を見上げれば星々が瞬いており、その闇のどこかにアンタレスがいることを想像した。

さそり座でもっとも輝きを放つ赤い恒星・アンタレス。