「近い……。そう、近い……よね」

けれど、もっと近づきたい。

さすがに恥じらいがなかったとメメリアは身体を起こし、男にまたがったまま距離をとって見つめた。

妙に心臓がドキドキして、身体が火照る。

電流が走ったような衝撃を受け、今は飽くことなくその美貌を堪能したかった。


「名前、聞いてもいいですか?」

「名前……」

危険な体勢のまま。

男は眉間にシワをよせ、悩ましそうに手首から手を離すとメメリアの腕を押して身体を起こす。

「リヴィアンだ。ネリウス王子の従者をしている」

「リヴィアン様……」

「別に様付けされるような身分じゃない」

「……では、リヴィと」

名前を奏でるだけで内側から風が吹き荒れるみたいだ。

喉から音が出てきて、舌から転がり、濡れた唇を震わせて言葉となる。

なんて甘美な響きなんだと、メメリアは経験したことのない痺れにときめいていた。

「ネリウス王子を狙う者としてあたしを捕えますか?」

「……いや、別に」

リヴィアンはメメリアの距離の近さにげんなりとし、さすがに馬乗りは嫌だと身を捻って抜け出した。

急に温度が遠くなってしまい、メメリアとしては物足りないが仕方ないこと。

メメリア自身も、己が何をしているのか理性的に考えることが出来ずに戸惑っていた。


「場所を変えよう。……少し、話そうか」

メメリアの正体を問い詰めるため。

そうとはわかっているが、メメリアはリヴィアンに手を掴まれると喉の奥から黄色い悲鳴が出そうになっていた。

(キャーッ! なに、なになになに~!? どうしよう、すっごくドキドキする……!)



これは何だろう?
この現象を人は何と呼ぶの?

セリアが打ち明けてくれた想いと同じものと名付けるには早すぎる。

こんなにも心臓をわしづかみにされて、ちょっとした仕草を見て取るだけでえくぼがヒリヒリした。