(3学期が始まった。冬休みと同時に推しは繁忙期に入り、クリスマスに会えるわけでも、一緒に初詣に行けるわけでもなく。年始に新年の挨拶を送り合っただけ。これが今の関係の限界なのだ。一応今月会えるか聞いてみようかな)
さゆかは学校帰りに本屋に寄り、雑誌を立ち読みしていた。
「あっ」
男性がさゆかの方を向いている。
「??」
(あれ、この人どこかで…)
「俺、店長と文化祭にお邪魔した駒井です!」
「あぁー!あの時はわざわざありがとうございました!」
「いえいえ、久しぶりに文化祭行って、むちゃくちゃ楽しかったです」
(なんだか良い人ー)
「急に店長に誘われた時は、びっくりしましたけどね。妹みたいな子と約束したって、高校生の知り合いがいたのが驚きで」
(妹…?みたいな…?あ、だからあんな風にできたんだ…)
文化祭で抱き寄せられことを思い浮かべた。
「そうなんですね。3人ともお洒落で、すごく目立ってました」
「まじっすか!悪目立ちしてないといいけど。
あの日、店長が女の子に声かけられまくって」
(え…知らなかった。まぁ、あんなイケメンが校内歩いてたら文化祭のノリもあるし声かけるよね)
「やっぱり、滝さんモテるんですね」
「店長の人気はヤバいですよ。土日は店長目当てのお客様が後を絶たないし、店長指名で接客お願いする人も多くて。アパレル店員なのに差し入れやプレゼントもらうレベルです」
(そうだよ、みんな推しにするよね。あの魅力に気づかない方がおかしい。うん、分かってる。推しはみんなのもの。滝さんが私だけの推しじゃないって分かってる…)
My推しルール
その3、推しを独り占めしない
家に帰り、駒井との会話を思い出し落ち込むさゆか。
(妹かぁ…そうだよねぇ。いや、むしろ妹みたいに思ってくれてるって、結構特別だよね!?うん、家族みたいってことだし。…なんだろう、このモヤモヤする気持ち)
考えているとちょうど滝から連絡がきた。
『お疲れ様。
ごめん。今月は仕事や新年会の関係で会えそうにないかな』
(うー、追い打ちをかけるような…)
もう1通送られてきた。
『来月なら会えると思うんだけど、どうかな?』
一気に表情が明るくなる。
(さっきまで落ち込んでたのに、一瞬で飛び跳ねるほど嬉しくなるとか、単純か私は。きっと私の感情は、推しで日々変化してる)
2月テスト明け。
(テスト勉強頑張ったご褒美に、新作のフラペチーノご馳走してくれるなんて優しいなぁ)
さゆかは滝を待ちながらスマホを見ていた。
「あれ!しらっち?」
声の方を向くと菅がいた。菅と同じバスケ部の矢田も一緒だ。
「なにしてんの?」
「人を待ってる。そっちは部活帰り?」
「おん。試合近いし、ここんとこ休みなし」
「そっか、お疲れだね。寒いし体調崩さないようにね」
「さんきゅ。じゃあ、また学校でな」
菅に手を振り、矢田に軽く会釈をした。
少し進んだところで「あ、そうだ」菅が振り向き、大きな声で言う。
「誕生日会、土曜だからな!絶対予定入れんなよー!」
オッケーサインを向けるさゆか。
菅たちとすれ違いながら滝がやってきた。
「お待たせ」
コーヒーショップに入り、フラペチーノを頼み席についた。
「さっきのって友達?」
「はい、1人は同じクラスで。背の高い子は、他のクラスなんでよく知らないんですけど、モテるみたいです」
「かっこいい子だったもんね。さゆかちゃんは、学校にかっこいいと思う人いないの?」
「うーん、残念ながらいません」
(だって私の推しはあなたですから!)
「さゆかちゃんならすぐ彼氏できそうだけどね」
(ズキッ。ご褒美といい、今の発言といい、妹だと思ってる感がひしひしと伝わる。まぁ、可愛がってくれてるのは嬉しいけどさ)
「制服で放課後デートしたりさ、一緒に勉強しながらいつの間にかイチャイチャとか、今しかできないよ?」
「イチャイチャって…。滝さんは、高校生の時そうしてたんですか?」
「俺?俺、高校は男子校なんだよね。当時付き合ってた子の学校遠くて、だから放課後デートしたことないんだ」
(自分から聞いときながら、推しの過去の恋愛話聞くのやだな)
「そういえば、さっきの子って今月誕生日なの?」
「え?ああ、祝う側です彼は。うちのクラス仲良くて、毎月誕生日の子たちをみんなでお祝いするんです。カラオケ行ったり、バーベキューしたり、祝う側が内容決めてて」
「めちゃくちゃ青春してるじゃん。…あれ、さっきの子の言い方…もしかして、さゆかちゃん誕生日側!?」
気まずそうに頷くさゆか。
「もぉー、そういう大事なことはちゃんと教えてほしかったなぁ。いつなの?」
「21日です…」
スマホを見る滝。
「21仕事だ。20日って空いてる?」
「学校終わったら暇です。でも、ほんと気にしないでください」
「なら20日お祝いさせて?」
「…気遣わせてごめんなさい」
「俺が祝いたいのー。クラスのお祝いに負けないように気合い入れようかな」
笑顔で言う滝にきゅんとするさゆか。
飲み終え、外に出ると風が強く吹いた。
(うぅ、思ったより寒い。マフラー持ってくればよかったな)
さゆかが寒そうな顔をしていると
「さゆかちゃん」
ふわっ。滝が自分の巻いていたマフラーをさゆかの首にかけた。そのままマフラーをぐるっと巻いた。
「今だけ俺ので我慢して」
「すみません、ありがとうございます」
(優しさなのか、妹への世話焼きなのか。まぁ、どっちでもいいや)
さゆかは学校帰りに本屋に寄り、雑誌を立ち読みしていた。
「あっ」
男性がさゆかの方を向いている。
「??」
(あれ、この人どこかで…)
「俺、店長と文化祭にお邪魔した駒井です!」
「あぁー!あの時はわざわざありがとうございました!」
「いえいえ、久しぶりに文化祭行って、むちゃくちゃ楽しかったです」
(なんだか良い人ー)
「急に店長に誘われた時は、びっくりしましたけどね。妹みたいな子と約束したって、高校生の知り合いがいたのが驚きで」
(妹…?みたいな…?あ、だからあんな風にできたんだ…)
文化祭で抱き寄せられことを思い浮かべた。
「そうなんですね。3人ともお洒落で、すごく目立ってました」
「まじっすか!悪目立ちしてないといいけど。
あの日、店長が女の子に声かけられまくって」
(え…知らなかった。まぁ、あんなイケメンが校内歩いてたら文化祭のノリもあるし声かけるよね)
「やっぱり、滝さんモテるんですね」
「店長の人気はヤバいですよ。土日は店長目当てのお客様が後を絶たないし、店長指名で接客お願いする人も多くて。アパレル店員なのに差し入れやプレゼントもらうレベルです」
(そうだよ、みんな推しにするよね。あの魅力に気づかない方がおかしい。うん、分かってる。推しはみんなのもの。滝さんが私だけの推しじゃないって分かってる…)
My推しルール
その3、推しを独り占めしない
家に帰り、駒井との会話を思い出し落ち込むさゆか。
(妹かぁ…そうだよねぇ。いや、むしろ妹みたいに思ってくれてるって、結構特別だよね!?うん、家族みたいってことだし。…なんだろう、このモヤモヤする気持ち)
考えているとちょうど滝から連絡がきた。
『お疲れ様。
ごめん。今月は仕事や新年会の関係で会えそうにないかな』
(うー、追い打ちをかけるような…)
もう1通送られてきた。
『来月なら会えると思うんだけど、どうかな?』
一気に表情が明るくなる。
(さっきまで落ち込んでたのに、一瞬で飛び跳ねるほど嬉しくなるとか、単純か私は。きっと私の感情は、推しで日々変化してる)
2月テスト明け。
(テスト勉強頑張ったご褒美に、新作のフラペチーノご馳走してくれるなんて優しいなぁ)
さゆかは滝を待ちながらスマホを見ていた。
「あれ!しらっち?」
声の方を向くと菅がいた。菅と同じバスケ部の矢田も一緒だ。
「なにしてんの?」
「人を待ってる。そっちは部活帰り?」
「おん。試合近いし、ここんとこ休みなし」
「そっか、お疲れだね。寒いし体調崩さないようにね」
「さんきゅ。じゃあ、また学校でな」
菅に手を振り、矢田に軽く会釈をした。
少し進んだところで「あ、そうだ」菅が振り向き、大きな声で言う。
「誕生日会、土曜だからな!絶対予定入れんなよー!」
オッケーサインを向けるさゆか。
菅たちとすれ違いながら滝がやってきた。
「お待たせ」
コーヒーショップに入り、フラペチーノを頼み席についた。
「さっきのって友達?」
「はい、1人は同じクラスで。背の高い子は、他のクラスなんでよく知らないんですけど、モテるみたいです」
「かっこいい子だったもんね。さゆかちゃんは、学校にかっこいいと思う人いないの?」
「うーん、残念ながらいません」
(だって私の推しはあなたですから!)
「さゆかちゃんならすぐ彼氏できそうだけどね」
(ズキッ。ご褒美といい、今の発言といい、妹だと思ってる感がひしひしと伝わる。まぁ、可愛がってくれてるのは嬉しいけどさ)
「制服で放課後デートしたりさ、一緒に勉強しながらいつの間にかイチャイチャとか、今しかできないよ?」
「イチャイチャって…。滝さんは、高校生の時そうしてたんですか?」
「俺?俺、高校は男子校なんだよね。当時付き合ってた子の学校遠くて、だから放課後デートしたことないんだ」
(自分から聞いときながら、推しの過去の恋愛話聞くのやだな)
「そういえば、さっきの子って今月誕生日なの?」
「え?ああ、祝う側です彼は。うちのクラス仲良くて、毎月誕生日の子たちをみんなでお祝いするんです。カラオケ行ったり、バーベキューしたり、祝う側が内容決めてて」
「めちゃくちゃ青春してるじゃん。…あれ、さっきの子の言い方…もしかして、さゆかちゃん誕生日側!?」
気まずそうに頷くさゆか。
「もぉー、そういう大事なことはちゃんと教えてほしかったなぁ。いつなの?」
「21日です…」
スマホを見る滝。
「21仕事だ。20日って空いてる?」
「学校終わったら暇です。でも、ほんと気にしないでください」
「なら20日お祝いさせて?」
「…気遣わせてごめんなさい」
「俺が祝いたいのー。クラスのお祝いに負けないように気合い入れようかな」
笑顔で言う滝にきゅんとするさゆか。
飲み終え、外に出ると風が強く吹いた。
(うぅ、思ったより寒い。マフラー持ってくればよかったな)
さゆかが寒そうな顔をしていると
「さゆかちゃん」
ふわっ。滝が自分の巻いていたマフラーをさゆかの首にかけた。そのままマフラーをぐるっと巻いた。
「今だけ俺ので我慢して」
「すみません、ありがとうございます」
(優しさなのか、妹への世話焼きなのか。まぁ、どっちでもいいや)



