(期末テストが終わっても、受験生に勉強の休みはない。一優さんと話し合い、受験が終わるまで会うのは月1、他の予定が合う日はテレビ電話をすることにした)
お風呂上がりに部屋で一優とテレビ電話をするさゆか。
「新作で入ったニットがすごく可愛くて、さゆかに似合うと思うから今度渡すね」
「ありがとうございます」
(一優さんは本当に服が好きで、自分のだけでなく私への服も買うことが多い。社割があるとはいえ、買ってもらうのは申し訳ない気持ちもある。でも、一優さんが選んだ服はどれも素敵だし、着た姿を見て喜んでくれるからつい甘えてしまう)
「勉強疲れとか大丈夫?」
「はい。詰め込み過ぎないようにしてるので。ただ、甘いものをよく食べるようになっちゃって…確実に太ったと思います。怖くて体重計に乗れないです」
「あはは、画面越しで見る感じ何も変わってないけどなぁ。むしろさゆかは細すぎだから、もっと太ってもいいぐらいだよ」
「甘やかさないでくださいー」

 それからもさゆかや麻由たち3年生は、学校や家で受験に向け、必死に取り組んでいた。


 月日は流れ、3月1日。体育館で卒業式が行われた。
(3年間あっという間だったなぁ。勉強は大変だったけど、楽しい思い出しかない。良い友達に恵まれて、行事は最高に楽しくて、本当にこの学校に来て良かった)
式の最中、たくさんの思い出を振り返る。

 式が終わり、教室で最後のホームルームが行われ、担任が生徒達に思いを伝えた。
「みんなの担任になれて本当に楽しかったし、幸せでした。悩んだ事もしんどい事もあっただろうけど、それでも毎日がむしゃらに前に進むみんなの姿に勇気をもらってた。大人になると挑戦することが怖くなるし、諦めることが増えます。だから今のうちにたくさん挑戦してくれ。若いうちの失敗なんてどうにでもなるから。みんなは俺の自慢の生徒だから…卒業おめでとう」
(いつも適当な感じだった先生がそんな風に思っていたなんて。あぁ、本当に今日で最後なんだ)

 卒業の余韻に浸り、誰も帰る気配のない5組の教室。室内には他のクラスの生徒も混じっている。
(あれ、菅がいない)
さゆかはキョロキョロする。
「どしたー?」
「菅がいないんだけど、どこ行ったか知ってる?」
「知らなーい」
「ちょっと探してくる」
さゆかは教室を出て探しに行く。
(あいつが行きそうな場所…)

 体育館に着いた。開いているドアから中を覗くと菅が制服姿のままバスケットボールを持ち、ゴールに向かって構えていた。
(やっぱりここにいた)
シュッ
見事にシュートが決まった。
(ほんとうにバスケが好きなんだなぁ)
優しく微笑み、ボールを拾いに行く菅に声をかける。
「何してんのー」
「わぁ、びっくりしたぁ」

 体育館内のステージに並んで座った。
「あっという間だったなぁ」
「ほんとだね」
「…しらっち、3年間ありがとうな!」
「何、急に改まって。まぁ、麻由や友美とは1年ずつ離れたから、3年間同じクラスだった菅には、ある意味1番お世話になったかも。ありがとね!」
「毎年4月に隣の席になるのが恒例だったな」
「あはは、そうだったね。初日に教室入って菅がいたら、この1年楽しくなるなって思ってたよ」
「…寂しいなぁ、まじで」
「菅、周りにいるみんなも学校も大好きだったもんね」
「うん…。寂しい」
「どしたの、菅!?泣くなら私の胸貸そうか!?」
笑うさゆかの横顔を見つめる。

 (ずっと、ずっと、入学式で会ったあの日からずっと好きだった。
「今日からよろしくね!」
たまたま隣の席で挨拶をしたあの時…きっと一目惚れだったと思う。
「よろしく」

 2年の夏。矢田がしらっちを好きだと知った。
「え、しらっちを花火大会に誘った!?」
「うん」
「…そうか。頑張れよ!」
矢田を応援する気持ちに嘘はなくて、上手くいくんじゃないかって思ってた。
 「白井さん好きな人いるってさ」
「えっ…」
矢田が振られたことよりも、しらっちに好きな人がいることに驚いた。いや、あの見た目と性格で彼氏いないことは奇跡だったんだけど。ただ、どこかでしらっちは恋愛に冷めてる気がしていたから、友達として距離を縮めることが精一杯だった俺にはダメージが大きかった。
 それでも運良く3年間同じクラスになれて、恋の女神は俺に微笑んでいるって思った。だけど、日々増えていく想いが伝わることはなく、時間だけが過ぎていった。

「しらっちー、撮ろうぜー!」
「いいよー」

「この後の応援も綱引きもリレーも、全部活躍できるお守り代わり!」

「あぁこの光景一生忘れないなって思ったんだぁ」

 しらっちとの時間や交わした言葉が、眩しいくらい輝いて、胸の奥でいつまでも色褪せない。振られると分かっていても、告白した方がスッキリ終われるんだろうか…)

 「あのさ、卒業しても仲良くしような?」
「当たり前じゃん。菅がバスケで活躍する姿だって見に行くし、みんなで集まって遊んだりしようよ」
「…そうだな」
「みんな待ってるし、そろそろ行こ」
「おう」
少し先を歩くさゆかの横顔を見つめる。
(何年後かに「好きだった」って言ったら、君は笑ってくれるかな。本当に片想いすら幸せだった…だからこそ、綺麗な思い出のまま終わりたい)