(受験勉強の合間のリフレッシュ。今夜は友達数人と手持ち花火をする)
「お待たせーー!」
自転車のカゴに大量の花火を入れた菅がやってきた。
「菅、ありがとー!」
「あれ、水沢とかは?」
「デートですっ」
「チクショー…真野のやつ恋愛興味ないみたいな顔してたくせに、ちゃっかり…」

 花火を楽しむさゆかたち。
「これすごく綺麗な色!」
「こっちのは色変わるよ」
「おいっ、こっち向けてくんなよ」
「あはは」

 「なんか喉乾いたな」
「そうだねー。じゃあ、じゃんけん負けた人が菅と買い出しに行こう!」
「何で俺は確定なんだよっ!」
「いいからいいから。はい、じゃんけんぽんっ」

 「負けるなんて…」
友美がぶつぶつ言いながら、自転車を押す菅の横を歩く。
 近くのスーパーに着き、飲み物をカゴに入れていく。
「これ、しらっちがうまいって言ってた」
「…。」
 「アイスも食いたいけど、溶けるかぁ」
「氷もらっていけばギリセーフじゃない?」

 スーパーの駐輪場。
「溶けないように急ごうぜ。加藤、後ろ乗れ!」
2人乗りでみんなの元へ急ぐ。
「ねぇ、菅…」
「ん?」
「彼女ほしいの?」
「えっ!?彼女…いたら楽しいんだろうけど、高校の間はいらねーかな」
「そうなんだ」
「ま、無駄にイチャイチャしてるカップルはムカつくけど!はははー」
「菅って意外とモテるタイプなのに勿体ないねー。欲言わなければ彼女なんてすぐなのに」
「意外は余計だわ。…欲が出ちゃうんだよ。好きなやつと付き合った方が絶対幸せじゃん?」
「そうだねー…」

 「アイス買ってきたよー!」
「最高!ありがとー!」
一旦花火をやめて、アイスを頬張るさゆかたち。
「うまー」
「そういえば知ってる?4組の原カップル別れたらしいよー」
「え、そうなの!?仲良いイメージだったからびっくり」
「ほんと女子ってそういう情報早いよな」
「男子しか知らない情報とかないの?」
「ねぇよ。矢田がまた告られてたってことしか」
「そんだけ告白されてて、誰とも付き合わない矢田ってなんなの」
「アイツが告白することとかあんのかな」
微妙に気まずい顔をするさゆか。

 最後は全員で円になってしゃがみ、線香花火に火をつけた。
パチパチパチッ
「あー貴重な高校生活の夏が終わるー」
「2学期から一気に受験生って感じになるよね」
みんなが他愛ない話をする中、菅が斜め前のさゆかをぼーっと見ていた。
ぱちっ
さゆかと目が合い、すぐに逸らした。
ばっ
「?」

 「じゃあ、また学校でなー!」
「ばいばーい」
解散しそれぞれ帰る中、菅が1人で歩き出すさゆかに声をかける。
「しらっち、近くまで送る」
「いいよ、菅が帰るの遅くなっちゃうよ」
「さすがに女子1人で帰らせれねぇよ。他の女子も同じ方向のやつが送っていったし」
「そっか、ありがとう」
「…後ろ乗る?」
「ううん、歩きたい気分だから。菅、疲れてない?」
「え?」
「花火持ってきてくれたり、買い出し行ってくれたり1番頑張ってくれたから」
「そんなことで疲れねーよ。すげぇ楽しかったし」
「ならよかった。ほんと楽しかったね。大学生になっても楽しいこと、青春だなって思うことたくさんあるんだろうけど、出来ることが限られた高校生だからこその楽しさが最高だよね。ごめん、なんか急に語って」
「いや、めちゃくちゃ分かる!大学生や大人になってさ、嫌なことあった時に高校の頃に戻りてぇーって絶対思う自信ある。毎日楽しすぎて、時よ止まれって何回思ったことか」
「あはは」
菅が空を見上げる。
「…今日の月、すげー綺麗だな」
「…ほんとだ」


 母の再婚相手と会う日。レストランの個室で顔を合わせた。
「初めまして、中原 樹です。よろしくね」
「さゆかです。よろしくお願いします」
(落ち着いてて優しそうな人)
「滝 一優です。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません」
「母の愛香です。今日はわざわざありがとうね」

 和気あいあいと食事を楽しむ4人。
「お母さんたちさ、さゆが卒業した後の3月下旬に入籍しようと思ってるの。でね、それに合わせて沖縄でハネムーンも兼ねて、2人だけで挙式しようと考えてて。良かったらさゆと一優くんにも来てほしいなって思うんだけど、どうかな?」
「え、いいの?」
「一優くん休み取れる?」
「3連休なら取れると思いますが、僕もご一緒していいんですか?」
「2人も結婚考えてるんでしょ?家族になるなら一緒に思い出作っておこうよ」
顔を見合わせるさゆかと一優。
「そのことなんですが、さゆかさんが高校を卒業したら一緒に暮らしたいと思っています。1年ほど同棲をして、入籍するのが今の僕たちの考えです」
「そうなのね。2人で決めたことならいいと思うよ。一優くんのご両親は何て言ってるの?」
「電話で伝えたところ、とても喜んでいました。またタイミングをみて、2人で挨拶に行くつもりです」
「ならよかった。そういえば一優くんって、転勤族なのよね?」
「はい。今は総合職で転勤がありますが、同棲するタイミングで転勤なしの地域限定に変更する予定です」
「だからお母さん達には、私を気にせず我が家に2人で住んでほしいなって」
「あはは、さすが親子だな」
中原が優しく笑う。
「??」
「家のことなんだけど、さゆかたちが我が家に住むのはどう?お母さんね、彼が今住んでいる社宅に住もうと思ってるの。さゆかたちがあの家に住めば家賃はかからないし、もし家族が増えても困らないでしょ。もちろん2人が嫌じゃなければね」
「お母さん…」
「まだ先のことだから、ゆっくり2人で考えておいて」
「お気遣いありがとうございます。またお返事させていただきます」

 店から出た4人。
「一優くん、娘のことよろしくお願いします」
「はい。必ず幸せにします」
(もぉ、2人とも気が早いんだから)
「さゆかちゃん、お母さんのことは任せてね」
「ありがとうございます」
(お母さんが再婚したら寂しく感じるのかなって思ってだけど、なんだろう…中原さんは私を含めたお母さんの周りの人を大切にしてるのが伝わってきて、何の違和感もなく受け入れることができた。それに色んな愛のカタチがあるんだって、お母さんたちを見て思えた)
「お母さん、お互い幸せになろうね」
「ふふふ、そうね」
親子のやりとりを優しい表情で見る一優と中原。