約束の日曜日の夜。
「さゆかちゃん」
「お疲れ様です」
「お待たせ。お腹空いたー、何食べたい気分? あ、せーので言おっか…せーのっ」
「「ラーメン!」」
「すご、一致したね。女子高生をラーメン屋に連れて行くの嫌がると思った」
「ラーメン好きですよ!それにおすすめのお店があるんです」
「さすが!楽しみ」

 カウンター席でラーメンを食べる2人。
「うまっ!今まで食べた塩ラーメンで1番だこれ!」
「ほんとですか!?良かったぁ」
ホッとしながら笑うさゆか。
「滝さんがラーメン好きなの意外でした。おしゃれなパスタしか食べないのかと」
「いやいや、俺にどんなイメージ持ってるの。そういえば、夜に会うの初めてだけど、門限とか大丈夫?」
「うち母子家庭で、母も仕事忙しいし、特に決まってないんです」
「そっか、了解」
 ラーメンを食べ終えたさゆかは、少しドキドキしながら滝に言った。
「あの、来月末に文化祭があるんですけど、予定が合えばぜひ来てください!うちの文化祭、大人も楽しめると思うんで!」
「へぇ、月末って土日だよね」
スマホの予定表を見る滝。
(あ、土日は仕事か…)
「お、土曜なら空いてる。さすがに1人だと浮くから空いてるスタッフ連れて行ってもいい?」
「もちろんです!後で詳細送ります」
「さゆかちゃんは何するの?」
「うちのクラスは、映えスポットです。ほんとは模擬店したかったんですけど、1、2年はくじ引きで選ばれたクラスしかできないんです。うちは見事に外れて…。なので隣の教室も借りて映えスポットを作るんです」
「なんか今どきだね」


 教室で文化祭の準備をするさゆかたち。
「菅ーー!サボってないでちゃんとしなさいよー!」
「サボってねーよ!本番に向けて体力温存だよー」
さゆかと菅のやりとりを見ながら友美が麻由に聞く。
「なんでいきなりあんな張り切ってんの?」
「推しが文化祭に来るんだってさ」
「まじか。よく誘えたね。でもまぁ、うちらも推しを見られるチャンスだね。頑なに店には行くなって言われてたし」

 文化祭当日。キョロキョしながら校内を歩くさゆか。
(まだ来てないのかな)
「さゆかちゃん!」
後ろを振り返ると手をあげ微笑む滝がいた。
「滝さん!」
(ほんとに来てくれた。えええ、前髪下ろしてる〜良き〜)
「わぁー制服姿初めて見た。本物のJ Kだ」
「あんまりジロジロ見ないでください。今日はわざわざありがとうございます。他の人は?」
「来て早々模擬店でなんか買ってる。ほらあそこ」
滝の目線の先には、模擬店の列に並ぶ男女2人がいる。
「久々の文化祭だし、学生気分で楽しませてもらうよ。後でさゆかちゃんのクラス寄るね」
2人の元へ行く一優の後ろ姿をぼーっと見ていると「推し来た?」と麻由が声をかけた。
「うん」
「どこどこ?」
「あそこの3人組、私の推しは真ん中」
「え?3人ともオシャレ偏差値高すぎじゃない?
しかも顔面までいいとかなんなの」
「そうなのだよ。私の推しはレベルが違うの」
ドヤ顔で言うさゆか。

 しばらく経ち、さゆかは教室で案内をしていた。
「さゆか!来たよ推し」
麻由が小声で伝える。身なりを整えながら滝の元へ駆け寄るさゆか。
「滝さん」
「お疲れ様。すごいね、想像してたより本格的」
「すげぇー!!店長撮りましょうよ」
男性スタッフが滝の腕を引きオブジェのそばへ行く。
「あはは。こまくんハート似合わない〜!」
楽しそうに写真を撮る3人。
(推しがこの教室に居るなんて不思議。そして無邪気な姿…眼福)
麻由が盛り上がる3人に話しかける。
「2つの教室以外に、校内に1つだけ隠れ映えスポットがあるんです。そこで写真を撮れば願いが叶うって設定にしてるので、お時間あれば色々回りながら探してみてください」

 滝たちが出て行き、少し経った頃。
「さゆかー、隠れスポット異常ないか確認してきてもらっていい?」
「おっけー」

 隠れスポットに着き、確認するさゆか。
(よし、どこも壊れてない。まだ誰も来てない感じだなぁ。結構頑張って作ったし、早く誰か気づかないかな。…確認出来たし、教室戻って…)
戻ろうとした時
「さゆかちゃん?」
目の前に滝が現れた。
「わ、滝さん。あれ1人ですか?」
「2人お化け屋敷行っちゃって。俺、苦手なんだよね」
「意外です」
「怖がりなんだよー。というかここだよね?さっきお友達が言ってた隠れ映えスポット」
「そうです!多分まだ誰も気づいてません」
「やったぁ、1番乗りだ。願い事が叶うスポット」
「設定ですけどね」
「すごー、手こんでるね。2人に自慢しよーっと」
スマホを手にする滝に「あ、私 撮りますよ」と手を差し出すさゆか。次の瞬間、滝が腕を引き、肩を抱き寄せた。
カシャ。インカメのシャッター音が響いた。
(え…)
「願い事叶うかな?」
さゆかの顔を見ながら囁く滝。
ドキッ
滝のスマホ画面に通知が表示される。
「あ、終わったっぽい。じゃあ、合流して適当に帰るね」
「あっ…はい。今日はありがとうございました」
「じゃあね」
手を振りながら去って行く滝。後ろ姿を見ながら、ぺたんとその場に座り込むさゆか。
(今、何が起こった?推しによるファンサ?なんか良い匂いしたし。待って待って、あんなの反則だよー)
ドキドキが止まらないさゆか。