あいにくの雨で家デート中、雑誌を読みながら広告ページに反応するさゆか。
「あ、この映画観たいんですよね。前作を何年か前にりっくんと見に行って、続き気になってて」
「そうなんだ。そういえば、律くんはいつ帰るの?」
「あぁ、日曜に帰るみたいですよ。なので、土曜日久々に2人で出かけようかと」
「…俺がいるのに他の男とデートするの?」
(あれ、これは妬きもち…?)
「デートじゃないですよ。相手はりっくんだし」
「でも男でしょ」
「…。」
いつもより冷たい言い方に少し戸惑いながら顔を覗き込もうとするさゆか。目が合う前にキスをした一優。そのまま今までにない激しいキスに変わっていく。
(あ、これ始まるやつ…?)
唇が離れ、息を切らし目が合う。
「そんな顔、あいつにも見せたの?」
(あいつ…?)
一優の手が、さゆかの首元からゆっくり下にいく。
「他の男に取られるくらいなら卒業なんか待たないのに…」
(え…)
一優は手を離し、黙り込む。
「…」
窓の外から聞こえる雨の音が激しくなる。
(…何なの。意味分かんない)
「あの…しないんですか?ここまでして抱かないって…。もしかして、私のこと好きじゃないんですか?」
「は!?そんなわけないじゃんっ。ずっと、そんな風に思ってたの?」
(怒ってる一優さん初めて見た…)
「…思ってませんよ!だけどっ…付き合ってるのに」
「…あのさ、学生でもしてることを大人の俺がしない意味分かる?」
「…」
「さゆかは高校生なんだよ。…そんなこと言うなら、そもそも付き合うなって話だけど。本当は付き合うのもだめだって、自分に言い聞かせてたけど、他の男に譲りたくなかったから…」
「そんなのずるいですよ。他の人に言わなきゃ別にいいんじゃないですか?それとも、私がまだ子供で魅力がないから」
「会うたびに、キスするたびに、好きだなって思うし、抱きたくなるよ。でも、大切なんだよ。さゆかのことも、2人のこれからも…」
沈黙が続く。
(綺麗事にも聞こえる。相談もせず、勝手に決めて…だけど、一優さんの言葉に嘘はない。分かってる、私がまだまだ子供なんだ。大切にしてくれているのに…)
「…一優さんの考えはよくわかりました。でも、それは一優さんのわがままですよね?」
「…うん、そうだね」
「なら、私にもわがままを言う権利はあると思うんです」
「え?いや、でも…わがまま言われてもしないよ」
「そんな欲求不満みたいなわがまま言いませんよ。お互いあと1年待ちましょう。ただ、肌と肌が触れ合うのは、たまにはありにしませんか?たとえば…一緒にお風呂に入るとか!」
「待って。それ結構、俺の我慢が試されるやつじゃ…。それに、さゆか恥ずかしがるよ」
「恥ずかしくて死ぬかもしれません。だけど、仲を深めるには必要かなって。お風呂はお泊まりの特権ですもん!」
笑顔を向けるさゆかを参ったなと思いながら、優しく抱きしめた。
「…ありがとう。いっぱい抱きしめて、いっぱいキスして、いっぱい好きって伝えるよ。だから俺のこと信じてそばにいてほしい」

 帰り際、玄関で靴を履き終えたさゆかに一優が問いかけた。
「あのさ、今度律くんと話せる時間あるかな?」
「え…あぁ、聞いときます」


 後日、ファミレスで律を待つ一優。
「どーも」
やってきた律は、無愛想な挨拶で向かいの席に座る。
「急にごめんね」
「なに、別れる気にでもなった?」
「簡単に離さないよ。さゆかの良さは、律くんが1番知ってるでしょ?」
「良さねぇ…。まだ付き合って半年だとお互い知らないことだらけだろ?」
「まぁね。でも、これからゆっくり知っていけばいいと思ってるから」
「さゆんとこが、母さんしかいないの知ってんの?」
「母子家庭なのは付き合う前に聞いたよ」
「ふーん。ねぇ、さゆと結婚する気なの?」
「結婚に夢見てる年頃だろうから、わざわざ口にしないけど、ちゃんと考えてるよ」
「はぁー…」
小さくため息をつく律。
「結婚に夢見るって…さゆはあんたが思ってるほど子供じゃないから。まぁでも、結婚なんて言わない方がいいよ。さゆは相手が誰だろうが結婚する気ないし、ましてやこんな年上のあんたとはしねーよ」
律の言葉に反応する一優。
「これは負け惜しみでも何でもないから。とりあえず別れるまでは、さゆのこと泣かせんなよ」

 土曜日。電車に乗り込むさゆかと律。
「ここ空いてるから座れよ」
「ありがとう」
目の前で吊り革を両手で持つ律は、さゆかの脚を挟むように立っている。
(めっちゃグッてしてくるんだけど)
軽く睨むと、生意気な顔で舌を出す律。
(優しいんだか意地悪なんだか…)

 美しく咲く桜並木に着いた。露店も多くあり、沢山の人で賑わっている。
「おぉ、ちょうど満開じゃん」
「ほんとだねー、綺麗!りっくん写真撮ろう」
さゆかの意外な提案に少し驚く律。
 インカメで写真を撮っていると
「撮りましょうか?」
近くにいたお兄さんが声をかけてくれた。
「あ、ありがとうございます」
カメラを向けられ、さゆかの肩を軽く抱き寄せる律。
(これ絶対カップルだと思われている…)
 露店で買ったものを食べ歩きをしながらお花見を楽しむ2人。

 帰りの電車内。さゆかの肩にもたれかかり寝ようとする律。
「着いたら起こしてー」
(最後の最後まで勝手なんだから…。重いし)
「俺さ…」
「え、寝るんじゃなかったの?」
「さゆが寂しくないなら、それでいいから。…でも、あいつと別れたらすぐ迎えにいく」
「…1番辛くて寂しかった時に、りっくんがそばに居てくれたから、この先寂しくなることはないよ。だからありがとね、りっくん」
「…そっか」
 (きっと私たちの関係は、周りから理解されないと思う。それでもいい。恋愛関係になることはないけど、これからもりっくんは大切で特別な人)