推しに接客されてから数日後、夏休みが始まった。蝉の声が響く中、さゆかは外を歩いている。
(暑いー、飲み物買わないと死ぬ)
やっと見つけた自動販売機で炭酸ジュースを買う。
ガコンッ
ペットボトルのキャップを開けながら、前に進もうとした時、少し先から推しが歩いて来ているのが見えた。
(え、お、推し!?嘘、ヤバい。この時間ってことは仕事休みなのかな)
驚いていると、推しもさゆかがいることに気がつき近寄ってきた。急いでボトルのキャップを閉めるさゆか。
「こ、こんにちは」
「こんにちは。また会いましたね」
改めて推しを見た。
(ええええ!?私服オシャレ過ぎない!?そのシャツ似合うのなんなの!お店で会う時よりピアスも指輪もなんだか派手め…色気が増してるんですけど!)
「着てくれてるんですね」
さゆかのスカートを指差す推し。
「はい…気に入ってるので」
「やっぱりすごく似合ってます」
そう笑顔で言う推し。
(きゅんっ)
「その服めちゃくちゃおしゃれですね」
「ありがとうございます。普段は派手な感じ着ることも多くて。店はカジュアル系なんでどっちも楽しめてますね」
「いいですね」
(どんな服でも似合いますとも)
「すみません、引き止めて。じゃあ 失礼します」
(ヤバい、行ってしまう。どうしよう)
「…あの!連絡先聞いてもいいですか…?」
「え」
(待って、そもそも推しに連絡先聞くのは推し活なんだろうか。たまに来る客にいきなり聞かれても引くよね。わぁーやらかしたー)
「僕のでよければ」
「え?…あ、ありがとうございます」
スマホを手にLINEを交換する2人。
(指先さえ綺麗…)
「さゆかって言うんですね。可愛い名前」
(可愛い…というか名前呼ばれた)
顔を赤くするさゆか。
「そんなそんな。というか、連絡先聞く前に名乗るべきでした。私、白井さゆかって言います。よろしくお願いします」
「僕こそ自己紹介遅れました。滝一優です。改めてよろしくお願いします)
お互いに会釈する。
(いゆう…名前までおしゃれとかなんなの!)
「じゃあ、失礼します」
推しの姿が見えなくなり、やっと落ち着いたさゆかはジュースを勢いよく飲んだ。
8月になり、クラスのメンバーとバーベキューを楽しむさゆかは、男子たちの焼いた肉を食べていた。
「3組の男子は神だよね。率先して焼く係してくれて、女子は何もせず座っててねって」
「いたせり尽せりだね」
「麻由とさゆかもこういう優男から選びなよ」
(友美は他校に中学から付き合っている彼氏がいる)
「実はさ…」
さゆかは麻由と友美にこっそり教えた。
「推しと連絡先交換したー!?どんな急展開よ」
友美が驚きながら言う。
「ふふふ、これが私の推し活の成果ですよ」
「じゃあ、今は連絡取ってるの?」
麻由に聞かれ黙るさゆか。
「…交換した日に、また買いに行きますみたいな軽いやりとりして終了したよ。今まで見ることしか考えてなかったから、どんな風に連絡すればいいか分からなくてさ」
「自分から連絡先聞いたくせに」
「ご飯とか誘えば良いじゃん。文面でやりとりするより会った方がスムーズかもよ?」
(そう言われてもなぁ…)
男子が声をかける。
「今日のデザートは、かき氷だからな!」
「おしゃれなやつなら食べるー」
「わがまま言うなよ。ただのシロップだ!ただし!今なら練乳大サービス」
(かき氷…)
その日の夜、ベッドの上でスマホ画面を見ながら眉間に皺を寄せるさゆか。
(推しを誘う…いや無理無理。あの推しを?無理無理ー!店頭で少し話したぐらいなのに。でも、よく知らないままLINEでやりとりする方がぎこちないかぁ…。悩んだって仕方ない、ダメ元で誘ってみよう)
何度も打ち直し、1時間後にやっと推しに連絡をした。
『こんばんは。
先日はありがとうございました。
気になっているかき氷屋さんがあるんですが、
良かったら一緒に行きませんか?』
(送ってしまったぁー)
足をバタバタさせながら枕に顔をうずめた。
数時間後。
(既読つかないなぁ。どうしよう、未読スルーされたら…。ううん、そんなことする人じゃない。はぁ、もう寝ようかな)
諦めて寝ようとした時、スマホに通知がきた。
『こんばんは。
返信遅くなってすみません。
さっき仕事終わったばかりで』
(きたーーー!!こんな遅くまで仕事だったんだ。仕事終わってすぐ返信くれたのかな)
『お誘いありがとうございます!
かき氷好きです。僕でよければぜひ』
(やったぁーーー!文面も丁寧で優しいなぁ)
推しと会う日。そわそわしながら待ち合わせ場所で待つさゆか。
「お待たせしてすみません」
帽子を被った滝がさゆかの元に来た。
(今日もイケメン!おしゃれ!こんなにバケハの似合うメンズいる!?うぅー眩しいー!)
「いえ、私もさっき来たとこなので」
「よかったです」
「今日はわざわざありがとうございます。あの、タメ口で大丈夫ですよ」
「じゃあ、店頭以外はそうさせてもらおうかな」
目的のかき氷屋に着いた2人は、向かい合わせに座った。
「わぁー迷うなぁ。何味にしよっかな」
メニュー表を見る滝をチラ見するさゆか。
(うわぁー目の前に推しがいる。伏目がちなこの角度やばい)
ぱちっ
滝と目が合った。
「決まった?」
微笑み聞いてくる。
(うっ、推しの動作、言葉、見た目、全てにやられてしまうっ!)
かき氷を食べながら話す2人。
「え 15歳!?ってことは中学生!?」
「15ですけど、高1です」
「てっきり大学生だと思ってたー。最近の子は大人っぽいね。高校生がこんなおじさんと出かけてて大丈夫?」
「おじさんって、滝さん何歳なんですか?」
「27だよ」
「全然おじさんじゃないですよ」
「高校生に言われてもなぁ」
「…たしかに」
笑い合う2人。
(やばー、推しと普通に会話してるー)
「俺、半年前に転勤で来たからこの辺のお店とかよく知らないんだよね」
「そうだったんですね。あ!私でよければ力になりますよ!おすすめのお店教えたり…」
「え」
(って何口走ってんの。今日だけでも奇跡なのに図々しい提案を)
「ありがとう。じゃあ お願いしようかな」
滝の言葉に唇を噛み締め喜ぶさゆか。
帰宅したさゆかは、推しとの夢のような時間を思い出し、幸せに浸っていた。
(最初から最後まで推しが素敵過ぎた…。またゆっくり会いたいなぁ)
2学期が始まってしばらく経った放課後、帰宅したさゆかは
「こっちの方が良いかなぁ?」
部屋の全身鏡の前で着る服を悩んでいた。
(かき氷から数日後、本当に推しから連絡が来た。おすすめの雑貨屋を知りたいとのことで、お店のURLを送ると、せっかくだし一緒に行かない?とまさかの返信があった)
カレンダーを確認するさゆか。
(どうやら推しは基本的に平日休みで、月に1、2回土曜や日曜に休みがあるらしい。だから平日の放課後か推しが休みの土日、または仕事終わりに予定を合わせるようになる。仕事も早番や遅番があるみたいで、やっぱり社会人って忙しいんだなって改めて思う)
さゆかが待ち合わせ場所に向かうと、滝がスマホを見ながら待っていた。
(遠目からでも分かるイケメンオーラ!)
「すみません、遅くなりました」
「俺が早く着いただけだから。謝んないで」
雑貨屋に向かって歩く。
「ごめんね、早速付き合ってもらって」
「いえ、お役に立てて良かったです」
「女性の意見も聞きながら選びたくてさ」
雑貨屋に着き商品を見る2人。
「店のスタッフへの誕プレなんだけど、キャンドルが趣味らしくて」
「素敵な趣味の方ですね。だったらあっちのコーナーにあるかも」
無事キャンドルを買い終え、別れ際に滝が言う。
「今日はありがとう。そうだ、今度の日曜って夜空いてる?」
「たしか予定なかったと思います」
「仕事終わりになっちゃうけど、今日のお礼にご飯奢らせてよ」
「いやいや、お礼されるほどのことしてないので」
(むしろこっちが沢山のときめきをありがとうございますなんだけど)
「俺とご飯行くの嫌?」
首を傾げ、上目遣いで聞く滝。
「そんなわけないです!」
「じゃあ 決まり!また時間連絡するね」
(あんなナチュラルに上目遣いするとか心臓に悪いんですけど!それに、接客と違ってちょっと強引な感じがたまらーん!わざわざお礼のために会ってくれるんだ…)
喜びで笑顔になるさゆか。
(暑いー、飲み物買わないと死ぬ)
やっと見つけた自動販売機で炭酸ジュースを買う。
ガコンッ
ペットボトルのキャップを開けながら、前に進もうとした時、少し先から推しが歩いて来ているのが見えた。
(え、お、推し!?嘘、ヤバい。この時間ってことは仕事休みなのかな)
驚いていると、推しもさゆかがいることに気がつき近寄ってきた。急いでボトルのキャップを閉めるさゆか。
「こ、こんにちは」
「こんにちは。また会いましたね」
改めて推しを見た。
(ええええ!?私服オシャレ過ぎない!?そのシャツ似合うのなんなの!お店で会う時よりピアスも指輪もなんだか派手め…色気が増してるんですけど!)
「着てくれてるんですね」
さゆかのスカートを指差す推し。
「はい…気に入ってるので」
「やっぱりすごく似合ってます」
そう笑顔で言う推し。
(きゅんっ)
「その服めちゃくちゃおしゃれですね」
「ありがとうございます。普段は派手な感じ着ることも多くて。店はカジュアル系なんでどっちも楽しめてますね」
「いいですね」
(どんな服でも似合いますとも)
「すみません、引き止めて。じゃあ 失礼します」
(ヤバい、行ってしまう。どうしよう)
「…あの!連絡先聞いてもいいですか…?」
「え」
(待って、そもそも推しに連絡先聞くのは推し活なんだろうか。たまに来る客にいきなり聞かれても引くよね。わぁーやらかしたー)
「僕のでよければ」
「え?…あ、ありがとうございます」
スマホを手にLINEを交換する2人。
(指先さえ綺麗…)
「さゆかって言うんですね。可愛い名前」
(可愛い…というか名前呼ばれた)
顔を赤くするさゆか。
「そんなそんな。というか、連絡先聞く前に名乗るべきでした。私、白井さゆかって言います。よろしくお願いします」
「僕こそ自己紹介遅れました。滝一優です。改めてよろしくお願いします)
お互いに会釈する。
(いゆう…名前までおしゃれとかなんなの!)
「じゃあ、失礼します」
推しの姿が見えなくなり、やっと落ち着いたさゆかはジュースを勢いよく飲んだ。
8月になり、クラスのメンバーとバーベキューを楽しむさゆかは、男子たちの焼いた肉を食べていた。
「3組の男子は神だよね。率先して焼く係してくれて、女子は何もせず座っててねって」
「いたせり尽せりだね」
「麻由とさゆかもこういう優男から選びなよ」
(友美は他校に中学から付き合っている彼氏がいる)
「実はさ…」
さゆかは麻由と友美にこっそり教えた。
「推しと連絡先交換したー!?どんな急展開よ」
友美が驚きながら言う。
「ふふふ、これが私の推し活の成果ですよ」
「じゃあ、今は連絡取ってるの?」
麻由に聞かれ黙るさゆか。
「…交換した日に、また買いに行きますみたいな軽いやりとりして終了したよ。今まで見ることしか考えてなかったから、どんな風に連絡すればいいか分からなくてさ」
「自分から連絡先聞いたくせに」
「ご飯とか誘えば良いじゃん。文面でやりとりするより会った方がスムーズかもよ?」
(そう言われてもなぁ…)
男子が声をかける。
「今日のデザートは、かき氷だからな!」
「おしゃれなやつなら食べるー」
「わがまま言うなよ。ただのシロップだ!ただし!今なら練乳大サービス」
(かき氷…)
その日の夜、ベッドの上でスマホ画面を見ながら眉間に皺を寄せるさゆか。
(推しを誘う…いや無理無理。あの推しを?無理無理ー!店頭で少し話したぐらいなのに。でも、よく知らないままLINEでやりとりする方がぎこちないかぁ…。悩んだって仕方ない、ダメ元で誘ってみよう)
何度も打ち直し、1時間後にやっと推しに連絡をした。
『こんばんは。
先日はありがとうございました。
気になっているかき氷屋さんがあるんですが、
良かったら一緒に行きませんか?』
(送ってしまったぁー)
足をバタバタさせながら枕に顔をうずめた。
数時間後。
(既読つかないなぁ。どうしよう、未読スルーされたら…。ううん、そんなことする人じゃない。はぁ、もう寝ようかな)
諦めて寝ようとした時、スマホに通知がきた。
『こんばんは。
返信遅くなってすみません。
さっき仕事終わったばかりで』
(きたーーー!!こんな遅くまで仕事だったんだ。仕事終わってすぐ返信くれたのかな)
『お誘いありがとうございます!
かき氷好きです。僕でよければぜひ』
(やったぁーーー!文面も丁寧で優しいなぁ)
推しと会う日。そわそわしながら待ち合わせ場所で待つさゆか。
「お待たせしてすみません」
帽子を被った滝がさゆかの元に来た。
(今日もイケメン!おしゃれ!こんなにバケハの似合うメンズいる!?うぅー眩しいー!)
「いえ、私もさっき来たとこなので」
「よかったです」
「今日はわざわざありがとうございます。あの、タメ口で大丈夫ですよ」
「じゃあ、店頭以外はそうさせてもらおうかな」
目的のかき氷屋に着いた2人は、向かい合わせに座った。
「わぁー迷うなぁ。何味にしよっかな」
メニュー表を見る滝をチラ見するさゆか。
(うわぁー目の前に推しがいる。伏目がちなこの角度やばい)
ぱちっ
滝と目が合った。
「決まった?」
微笑み聞いてくる。
(うっ、推しの動作、言葉、見た目、全てにやられてしまうっ!)
かき氷を食べながら話す2人。
「え 15歳!?ってことは中学生!?」
「15ですけど、高1です」
「てっきり大学生だと思ってたー。最近の子は大人っぽいね。高校生がこんなおじさんと出かけてて大丈夫?」
「おじさんって、滝さん何歳なんですか?」
「27だよ」
「全然おじさんじゃないですよ」
「高校生に言われてもなぁ」
「…たしかに」
笑い合う2人。
(やばー、推しと普通に会話してるー)
「俺、半年前に転勤で来たからこの辺のお店とかよく知らないんだよね」
「そうだったんですね。あ!私でよければ力になりますよ!おすすめのお店教えたり…」
「え」
(って何口走ってんの。今日だけでも奇跡なのに図々しい提案を)
「ありがとう。じゃあ お願いしようかな」
滝の言葉に唇を噛み締め喜ぶさゆか。
帰宅したさゆかは、推しとの夢のような時間を思い出し、幸せに浸っていた。
(最初から最後まで推しが素敵過ぎた…。またゆっくり会いたいなぁ)
2学期が始まってしばらく経った放課後、帰宅したさゆかは
「こっちの方が良いかなぁ?」
部屋の全身鏡の前で着る服を悩んでいた。
(かき氷から数日後、本当に推しから連絡が来た。おすすめの雑貨屋を知りたいとのことで、お店のURLを送ると、せっかくだし一緒に行かない?とまさかの返信があった)
カレンダーを確認するさゆか。
(どうやら推しは基本的に平日休みで、月に1、2回土曜や日曜に休みがあるらしい。だから平日の放課後か推しが休みの土日、または仕事終わりに予定を合わせるようになる。仕事も早番や遅番があるみたいで、やっぱり社会人って忙しいんだなって改めて思う)
さゆかが待ち合わせ場所に向かうと、滝がスマホを見ながら待っていた。
(遠目からでも分かるイケメンオーラ!)
「すみません、遅くなりました」
「俺が早く着いただけだから。謝んないで」
雑貨屋に向かって歩く。
「ごめんね、早速付き合ってもらって」
「いえ、お役に立てて良かったです」
「女性の意見も聞きながら選びたくてさ」
雑貨屋に着き商品を見る2人。
「店のスタッフへの誕プレなんだけど、キャンドルが趣味らしくて」
「素敵な趣味の方ですね。だったらあっちのコーナーにあるかも」
無事キャンドルを買い終え、別れ際に滝が言う。
「今日はありがとう。そうだ、今度の日曜って夜空いてる?」
「たしか予定なかったと思います」
「仕事終わりになっちゃうけど、今日のお礼にご飯奢らせてよ」
「いやいや、お礼されるほどのことしてないので」
(むしろこっちが沢山のときめきをありがとうございますなんだけど)
「俺とご飯行くの嫌?」
首を傾げ、上目遣いで聞く滝。
「そんなわけないです!」
「じゃあ 決まり!また時間連絡するね」
(あんなナチュラルに上目遣いするとか心臓に悪いんですけど!それに、接客と違ってちょっと強引な感じがたまらーん!わざわざお礼のために会ってくれるんだ…)
喜びで笑顔になるさゆか。



