小樽を満喫した6人は札幌に戻り、市電と徒歩で移動し、最後目的地である藻岩山の展望台へ向かう。
 もいわ山麓駅に着き、山頂に行くためロープウェイの列に並んだ。ロープウェイが到着し、列が前に進んでいく。
「申し訳ありません、定員の関係でここまででお願いします。すぐ次の便が参りますので」
4人を乗せたタイミングでスタッフにそう言われ、さゆかと矢田を残しロープウェイは発車した。
「タイミング惜しかったね。大丈夫?寒くない?」
「うん、大丈夫」
「今更だけど、一緒に行動するの嫌じゃなかった?」
「ううん。最初気まずいかなって思ったけど、すごく楽しいよ」
「よかった」

 展望台に着いた6人。
「わぁー!綺麗ーっ!!」
「感動レベルー!」
(一優さんに見せてあげたいなぁ。楽しいけど、ふと一優さんに会いたくなる)
「この幸せの鐘に名前書いた愛の鍵を付けたカップルは別れないんだってさー!彼氏と来ればよかったー」
「俺らで我慢しろよなぁー」

 「そろそろ戻るか」
麻由は菅の後ろ姿を見ながら、ロープウェイにさゆかが乗れなかった時のことを思いだす。車体が動き出し、さゆかと矢田の姿がドアの前から消えた時、菅が少しうつむき悔しそうな顔をした。たった一瞬のことだったが、麻由は見逃さなかった。
「見なきゃ気づかないのに…」
小さく呟く。自分の視線の先には菅がいて、菅の視線の先にはさゆかがいることを改めて感じてしまう。

 ホテルの最寄駅に着き、時間を確認する6人。
「夜ご飯の時間に間に合うかなぁ」
「結構ギリギリかもなぁ」
「走る、それしかない」
真野がそう言うと、それぞれ目を合わせ無言で頷き、一斉に走り出した。
「やばぁーい、走ったら余計寒いー!」
「ははは、でもなんかすげぇ楽しい!」
楽しそうに走る6人。ホテルまで残りわずかな時、疲れた麻由が少し止まり下を向いた。
「はぁっ…はぁ…」
「あとちょっとだ。引っ張ってやるから!」
顔を上げると菅が笑顔で手を差し出していた。
「あ…うん」
菅の手を取り、再び走りだした。

 無事夕食に間に合った6人。食べ終え、それぞれ部屋に戻った。
 お風呂後、さゆかは一優に連絡をした。
(お仕事終わったかな?)
『少しだけ電話できますか?』
『大丈夫だよ』
 部屋を出て、人のいないエレベーター近くのソファに座った。
「もしもし」
「もしもし。もしかして、会いたくなっちゃった?」
(うっ、バレてる…)
「察してください」
「あはは、俺も会いたいよ。どう、楽しい?」
「はい、すごく楽しいです」
「よかった。やっぱりそっちは寒い?」
「朝晩はもう凍えます。あ、さっき山頂にある展望台から夜景見たんですけど。すっごく綺麗で、一優さんにも見せたくなりました。うまく撮れなかったけど、後で写真送りますね」
「ありがとう。夜景一緒に見たことないもんね。そうだ、来月のデート夜景見に行こうか」
「嬉しいっ!そういえば、お土産何がいいですか?」
「わざわざ買わなくていいよ。さゆかが無事に帰って来てくれたら十分」
「それ、親が言うやつー」
「ははっ、俺は過保護だからね」
「もぉ。…じゃあ、就寝時間なのでそろそろ切りますね。電話ありがとうございました。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

 部屋に戻ろうとするとエレベーターが開き、菅が降りてきた。
「あ」
「え、何してんの」
「えっ?…あ!降りるとこ間違えた!」
「女子部屋しかないよ、ここの階。夜に来るとか変質者か彼女との密会目当てだよ」
「どっちもちげぇよ」
「あはは」
さゆかが笑いながら軽く髪を手ですいた。
ふわっ
「なんか、今めっちゃ良い匂いした!え、ホテルのシャンプー同じだよな!?」
「同じだよ。あ、多分ヘアオイルだ」
そう言って少し近づき、頭を軽く菅の方に傾けた。
ぶわっ
顔を赤くする菅。
「う、うん、すげぇ好きな匂い…。じゃ、そろそろ行くわ、おやすみ!」
「おやすみー」
 エレベーター内で耳まで真っ赤にし、しゃがみこむ菅。
「あんなのアウトだろぉ…」

 最終日は旭山動物園へ生徒全員で行く。移動のバスに乗り、担任が車内で呼びかける。
「こっから2時間半ぐらいかかるからなぁ!途中サービスエリア寄るけど、気分悪くなったら遠慮なく言えよー」

 無事到着し、正門で点呼が行われる。
「おぉーでけー!!この歳になっても動物園はテンション上がるな」
園内は班ごとに行動することになっている。出席番号で割り振りされたため、さゆかは菅と同じ班だった。
 それぞれの班がまわり始める。
「反時計回りに進む」
麻由と同じ班の真野が提案する。
「じゃあ、そうしようか」

 ペンギン館に着いたさゆかたち。
「かわいー!」
(一優さんの推しだ。写真送ってあげよっと)
メインのホッキョクグマ館に来た。
「迫力やばー!」
写真を撮り盛り上がる班員たち。少し緊張しながらカメラをインカメに切り替えた菅。
「しらっちー、撮ろうぜー!」
「いいよー」
カシャ
 その後も園内を巡る生徒たち。かば館の近くで真野が麻由に話しかけた。
「休む?」
「えっ、大丈夫だよ」
「疲れてたから心配」
「あぁ、ダッシュした時ね。寝て回復したから、大丈夫!心配ありがとう」

 動物園から空港に移動するバスの車内。寝る真野の横でこっそりさゆかとの写真を見て嬉しそうな顔をする菅。
 その後、空港でお土産を買い、無事に修学旅行を終えた。