大学の講義が終わって、校舎を出た瞬間。
横に並んで歩き出すと、千紗が視線を前に向けたまま、唐突に言った。
「……水野くん、バイト辞めちゃうんだ。」
「……うん。明日で最後、だって」
風が吹き抜け、千紗のポニーテールがふわりと揺れる。
「……そっか」
それきり、短い沈黙が落ちた。
でも、その沈黙は気まずくない。ただ、胸の奥に静かに沁みてくる。
「……なんかね」
思わず、ぽつりとこぼす。
「ちゃんとした理由だってわかってるのに……聞いたとき、すごく寂しかった」
「そりゃそうだよ。好きな人が辞めるんだから。寂しいのは当たり前でしょ」
「っ……千紗……」
無意識に目に涙がにじむと、千紗は小さく笑った。
「ねえ梓。もう、ちゃんと気持ち伝えちゃいなよ。あんたさ──“自分で選ぶ”って言ってたじゃん?」
「……うん」
「じゃあ隠す理由ないじゃん。水野くんのこと、好きなんでしょ?」
「……好き、だよ」
——好き。
彼に対するこの気持ちは日々膨らんでいくのに、
同時に寂しさや焦り、不安も同じくらい膨らんでいく。

