毒舌男子の愛は甘い。

「……あっ……」


思わず、声が漏れた。


カウンターの中にいる凪が、その子にふっと笑い、
グラスを拭きながら軽く会釈して話しかけている。


(知り合い……?)


凪が、女の子と親しげに話しているのが、珍しくて、注文のトレーを持ったまま、つい視線が止まる。



声は小さいから会話は聞こえない──そう思ったのに。



「来月から実習、本格的に始まるけど、水野くん、バイト続けるの?」


女の子の声が、意外と鮮明に耳に届いた。


その瞬間、心臓が小さく跳ねる。



「ああ……厳しそうだから、再来週まででバイトは辞めるって店長に話してる」



──え。



反射的に、口元を押さえた。



(……辞める、って……今、言った?)



嘘でしょ。聞いてない。



そんな話、私は──一度も聞いてない。



凪は、私と話すときより、ずっと柔らかい表情で、その子と話してる気がした。



その子の目をまっすぐ見ながら、淡々と、自分のことを話している。



その光景と、知らなかった事実に、どうしようもなく胸が締め付けられた。