毒舌男子の愛は甘い。


『好きな人いたんだ。よかったじゃん。うまくいくといいね』



そう言われたあの日から、なんとなく凪との会話がぎこちなくなった。


バイト中も、必要最低限の業務連絡だけ。


前はたわいない話で笑う時間があったのに──それが、少しずつ減っていった。


代わりに、悠人くんや葉月さんと話す声ばかりが耳に残る。


(……冷たい気がするのは、気のせい?)


気づけば梓は、凪に話しかけるタイミングを探すのが怖くなっていた。



特別な関係じゃないとわかっていても、“前はもっと近かった”と思ってしまう。




──そんな気持ちを抱えたまま迎えた、ある日の夕方。


カフェはティータイムで、甘い香りとカップの音が賑やかに混ざっていた。


いつものようにホールで注文を取り、ドリンクを運び、


少し汗ばんだ手のひらをエプロンでそっと拭った。



ふと、カウンター奥──



レジ横の空いた席に、見慣れない女の子が座っているのが目に入った。



ナチュラルなブラウンのロングヘア、白シャツにジーンズ。


肩から掛けたトートバッグには大学のロゴ入り缶バッジ。



どこか“大学生っぽい”空気をまとったその子は、カウンターの中の人に向かって笑っていた。