ある日の、夕方のカフェは、ちょうどお客さんが途切れた時間帯だった。


私はカウンター前のテーブルを片付け、空いたグラスをトレーにのせて戻ろうとしたとき──


「──あれ、梓?」


聞き覚えのある声に、反射的に足が止まる。


振り向くと、入口に立っていたのは元カレの拓海。


高校の時、初めてできた彼氏。けれど、彼の浮気が原因で別れた相手だ。


「……えっ、なんで、ここに」


思わず、表情がこわばる。


「たまたま近くで友達と遊んでてさ。なんか梓っぽい店員さん見えたから寄ってみた」


相変わらず軽い笑み。


茶色く染めた髪に、ゆるくかかったパーマ。高校の頃より大人びたけど、そのチャラい空気は変わらない。


彼はためらいもなくカウンター席に腰を下ろした。


「すっごい久しぶりだな〜。梓、めちゃくちゃ綺麗になったじゃん」


「別にそんなに変わってないよ」


「そう? けど、可愛いのは相変わらず」 



(……こういうとこ、ほんと変わらない)



笑って流そうとしたとき、カウンター奥でグラスを拭いていた凪と目が合った。


けれど、すぐに視線を逸らされる。胸の奥が小さくざわついた。