そのとき、後ろから車のエンジン音が近づく。


ふいに、凪が梓の背後に軽く手を添え、何も言わず車道側へ移動した。


その横を車が通り過ぎて行く。



「……あ、ありがとう…」


「別に」



ほんの数秒の出来事なのに、心臓の音はしばらく落ち着かない。


言葉じゃなくても、行動で伝わる優しさ。


(……やっぱり、こういう優しいところ好きだな)



街灯の下、隣を歩く横顔が、さっきよりもずっと近く感じた。