バイトが終わった帰り道。


悠人とは駅が反対方向のため、いつものように「じゃあね〜」と手を振って別れる。


残ったのは、梓と凪だけ。



「藤宮さん、駅?」


「うん…!」


「行こっか」



その短いやりとりだけで、少しだけ足取りが軽くなる。


よかった。


避けられてるわけじゃないんだと、安心した。


並んで歩く距離が、やけに近く感じて、胸の鼓動が速くなるのを誤魔化すように話題を探した。


「……水野くんって、大学、心理学専攻なんだよね?」


「うん」


「なんか納得なような、意外なような……」


「それ、よく言われる」



軽く笑って、心理学を選んだ理由を短く話してくれた。


高校のとき、適当に読んだ心理学の本が案外面白くて興味を持って、
人の気持ちを理解する方法を、もっとちゃんと知りたくなったこと。


言葉は淡々としていたけれど、その奥にある優しさがにじんでいて、聞いているだけで胸が温かくなる。



「実習もあるんだね。大変?」


「まあ……今はまだ大丈夫だけど、本格的に実習が始まったら、たぶん忙しくなる」


「実習って、どんなことするの?」


「現場見学とか、ケーススタディとか。スケジュール詰まるから……バイトも、考えないといけないかも」


「そう、なんだ…」


(……バイト、考えるって)



胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
その先の言葉が、喉の奥でからまって出てこなかった。