「ね、水野くん」


「ん?」


振り返ったその顔が、ほんの少しだけ驚いたように見えた。



「その……記念に、よかったら……一緒に撮ってみていい?」


「……」


「……あっ!!いや、悪用とかしないから!!ほんとに!」


変なところで慌てて、勢いで否定する。


なに言ってるんだ私は。記念にって言ったの、私なのに。


でも凪は、ふっと目を細めて、笑った。



「そんなに念押しされたら余計怪しいんだけど…」


「しないっ!絶対悪用しないから!!」


「ふっ、冗談だよ」


そんなやりとりが、どこか心地よくて、ほっとする。


ふざけるような口調なのに、その笑顔はちゃんと優しくて、少しだけ照れたようにも見えた。



「……いいよ。スマホ貸して」



スマホを渡すと、凪はちょっと真面目な顔になって、


でもちゃんと隣に立ってくれた。


画面に映る自分と、彼。


すぐ隣に感じる彼の気配。


(わ…、ちか…っ)


顔が近くて、心臓の音がうるさい。



「うしろのやつ、写るようにした方がいい?」

「あっ、うん。」


凪がロゴオブジェが写るよう、少し屈んでくれる。その時、少し肩が触れた気がして、心臓が跳ねた。


「撮るよ」


「……うん」


カシャッ。


「はい。ちゃんと撮れてる?」


「ありがとう!みてみる」



確認すると、緊張でぎこちない笑顔の自分と、いつも通りの表情の凪。


その一枚の写真に、言葉にならない気持ちが、ぎゅっと詰まった気がした。



「撮れてる…ありがとう」


「うん」



──ああ、もう少し、こんな時間が続けばいいのに。


なんて、わがままなことを思いながら、
スマホの画面をこっそりと見つめてた。



彼と、隣で笑った自分のその一枚を、
大事に、大事に、胸の奥にしまい込む。



(……また、こんな風に笑える日が、来るといいな)


そう願うことしか、今の私には、できなかった。



──遊園地の、夜風の中で。