「梓ちゃん」
「うん?」
「ちょっとイタズラしてもいい?」
思わず聞き返す。
「え?」
悠人くんはにこにこと笑いながら、 「ちょーっと動かないでね?」と言い、身を乗り出してきた。
「ちょ、ちょっと待って──」
言い終わらないうちに、顔がぐっと近づいてきて、視界のほとんどが悠人くんに覆われる。
「……え?」
距離が近すぎて、息を呑んだまま動けなかった。
カシャッ。
「……!?な、なに?」
一瞬のシャッター音。
スマホは顔の横に軽く構えられていて、写真を撮ったというより「撮るフリ」みたいだった。
「な、なに今の?」
「あ、ごめん。ちょっと手ブレしたかも〜」
ふざけたように笑い、スマホをちらっと見せるけれど、すぐに画面はスリープして中は見せてくれなかった。
「えっ、今写真撮ったの?」
「ん〜? どうだろうね?」
「ちょ、ちょっと……!」
慌てる私をよそに、悠人くんは何事もなかったかのように座席にもたれ、景色でも眺めるようにさらっと言った。
「ドキドキした?」
「へ……?」
「ふふ、ごめんごめん、気にしないで〜」
「いや、気にするよ……!」
胸がドキドキしていたのは確かだけど、どう受け取っていいのかわからなかった。
何かをされたというより、 “何かをされた気がする”だけだった。

