「ふぅ〜、満腹〜!」


フードコートを出て、昼下がりの陽射しが差し込む遊園地の小道を、4人でゆっくりと歩く。


先を行くのは梓と悠人。


ピザの話だとか、さっき乗ったジェットコースターの話だとか、何かと盛り上がっている。


「ねえ、梓ちゃん。“顔ヤバい選手権”やる?さっきジェットコースター乗ってる時撮られた写真の!」


「えっ、それ私めっちゃ不利じゃないですか!?」


「いやいや、俺もやばかったって〜!あっ、みて、この梓ちゃんは中々だね?」


「ちょっと!マジマジと見ないでください。この時ほんと怖かったんですからっ」


同じスマホを見あって、笑い合うふたりの声が、風に乗って届いてくる。


それだけで、心がざわつくのに──


「もう、悠人くんってば!」


……。



(……“悠人くん”、か)



さっきのフードコートで、ああやって流れで呼び方が変わったことは、別にいい。



自然だったし、空気も悪くなかった。



それに──



(俺だって、“別に呼び方こだわらない”って……言った)



言ったのは、本心だった。

呼び方にこだわるつもりはなかった。


……はずだった。



なのに。



(なんでこんなに、気になるんだ)



“悠人くん”って呼ぶ声が、耳に残る。


名前で呼ぶだけで、こんなに距離が近づいたように感じるのが、悔しい。
 


「ねぇねぇ、凪?」


横から、陽気な声が差し込んできた。



隣を歩く三浦さんが、にやりと笑いながらこちらを見上げてくる。



「だから名前で呼んでもらえばよかったのに〜〜。モヤモヤ顔に出てまーす」


「……別に、どっちでもいいですけど」 


「うっわ、出たその“別に”。クールぶっちゃって、素直じゃないんだからほんと」


「……」


「凪ってさ、さっきから梓ちゃんのこと、チラチラ見すぎじゃない?目線、バレバレだよ。今日特に美少女だもんね、梓ちゃん。」


「……見てないし」


「じゃ、耳が赤いのはなーんでだ?」


「…………」



言葉が出ない。


普段は、あっけらかんとしてるくせに、変なとこで鋭いんだよなこの人。