乗り込んだ瞬間、


背もたれに押しつけられるように肩が触れ合って、びくっと体が跳ねた。


(やばい、無理……距離、近すぎる……!)


視線を逸らすしかなくて、反対側を向いてたら──


「手、握る?」


低い声が、耳に落ちた。


「えっ……!?」


「怖いなら、って話」



顔は正面を向いたまま、凪はさらっと言った。


口調は相変わらず無表情気味なのに、そういうこと急に言うから、心臓がほんとに持たない。



「だ、大丈夫……たぶん……」


「無理だったら言って。途中でも、手出すから」


「……っ」



むり。


爆発する、心臓。


(ほんとに、なんでこんなに優しいの……。ずるい)



そして、スタート。



あっという間にカタカタと上がっていく。



頂点に近づいたとき、横からふっと手のひらが触れた。



……なんてことない、指先がほんの少し触れただけ。



それだけで、全身が熱くなる。


(好き、だな……やっぱり)



速度も、風も、悲鳴も──


ぜんぶ飲み込まれていく中で、ただその想いだけが、胸の奥に静かに残っていた。